第9話フリント・ガーネット
この国には3家しかいない公爵家の1人、フリント・ガーネット。
真っ黒で艶のある髪に、赤く輝くガーネットの宝石瞳、それに加えてやけに整った顔をした青年
炎魔法は父譲りで剣の腕もあり、今では王室騎士団の一員
年齢はゼニスと同じ歳で、性格は先程の紹介のように体育会系
炎の様に熱い男が今、私の部屋で勝手に茶菓子を食べているこいつだ。
黙ってさえいれば、美男子ではあるけれど、一度口を開くと荒い言葉で話すので、御令嬢達からは残念がられている
でも中にはこういう男性が好みの女性達も多く、何だかんだ結構人気があるみたいだ
まぁ、穏やかで優しいゼニスとは、全くの正反対とだけ言っておく。
そしてそんな彼と私は、従兄弟なのである。
「昨日ぶっ倒れたって聞いたから、こうして来て見たけど、どこも怪我してねーじゃん?よかったな!大体お前、生徒会になって結構無理しすぎたんじゃねーのか??」
あ、それともうひとつ追加、結構いいやつ!
ただ勝手に入ってきて、勝手に人の茶菓子を食べるイメージの方が強かっただけに、こうやって人のことを心配する所を見ると一気に好感度は上がるものだ
成る程、こう言った面が女性達に好かれる理由なのかもしれない
「うーん、そんなに無理してるつもりはなかったけど、そうだね。たまにはこうやって休むのもありかもしれない」
なんて、嘘よ、こんなに何もしないで過ごすなんてもう無理
転生前のゼニスは確かに、頑張り屋で常に仕事優先だけど、今は遊びにも目を向けたい、だって中身は女子高生ですから
「まぁでもよぉ、俺からしてみれば、お前はクソ真面目でつまんねぇやつだから、今日みたいに、たまにはのんびり過ごすのもいいんじゃねぇのか?」
ちょっと、クソ真面目ってなんだ?!
私のゼニスは真面目で優しい人なのよ、クソなんて言葉をつけるなんて、あんたどういう神経してんのよ!
内心、フリントに突っ込みたいことは沢山あるけれど、心の中だけで我慢して表情を乱さない様に気をつけながら、彼の言葉に返事を返した。
「まぁ、そうかもしれないけど、何もしないってのも退屈だよ」
「あぁそっか、聞いたぜ?ローズ叔母さんが剣も握るな、魔法も使うなって禁止令出したんだろ?流石にそれは俺でもキツイ」
「でしょ?だから、何もすることがなくて、王宮内を散歩しようとしてたんだよ、そしたらフリントが来てくれて驚いたよ」
「だろーな!暇してんじゃねーかなぁと思ってな!俺が遊びに来てやったんだよ、さすがだろ?」
へへっといたずらっ子のように、弾けた笑顔を見せる彼に、ありがたい気持ちは、もちろんある。
正直本気で暇していた所に、嵐のように現れたフリント
最初はなんか凄いの来たなと思ったけれど、実際こうして誰かと話し合えることは、嬉しい
しかし、私は彼に言いたいことがる。
今後の為にもこれは、きちんと彼に気をつけてもらいたい、なので私は言うぞ
「それはありがとう、だけどひとついい?」
「あぁ?何だ??」
「私の侍女を、困らせるのはやめて欲しいんだけど」
「…あぁ!あのちっこいのか?あーすまない」
案外素直に謝る彼に、次からは気をつけて、と注意をすれば素直に頷いた。
なんだ、言えばわかるじゃないか
「帰りにメイちゃんにも謝っておいてよ?」
「…メイちゃん?あのちっこいのの名前か?」
「そう、可愛いよね」
「まぁ、それっぽい名前だな」
「ぽいよね、確かに」
何だかメイちゃんへの謝罪の話から、あいつ可愛くね?って話になってるけど、きちんと謝るというフリントには感心した
やはり彼は、根は優しいんだな、更に好感度アップ!
「なぁ俺からも、ひとついいか……??お前って、あーゆう女が好みなのか??」
「……は?」
しかし、1人感心していた私をよそに、彼は何故か神妙な表情で好みなのかと尋ねてきた、どう言う意味…?
「だから、あの侍女みたいなちっこいのが好みなのか??」
何言ってんだ、なんで急にメイちゃんがタイプって、話になるのかさっぱりわからん、私が可愛いって言ったからか?
「好みとかそう言うことではなくて、人として気をつけてほしくて言ったんだけど…?」
「そんな睨むなよ、お前が可愛がってるみたいだったからちょっと聞いてみただけだろ」
「可愛がってたら好みってこと!?」
「いや、だって、メイちゃんって親しそうに呼んでたら誰だってそう思うんじゃねーのか??」
えぇぇまじか、そんなつもりはなくて普通に言っただけなんだけど…
もしかしたら、周りからは私が親しそうな異性は、そういう対象なんだと思ってしまうのかもしれない
うーん今度から気をつけよう
「なるほど、いい意見をありがとう。次から気をつける」
「いや、別に気をつけることはないけど?親しくすることは別に悪いことじゃねーしな」
おいぃぃ?!
「でも、フリントが言ったように勘違いされるのは困る」
「まーなぁ、俺もよく勘違いされんだよなぁ。ちょっと親切にしただけで私のこと好きって思われるんだよ」
「えぇ、単純すぎるでしょ?それで?」
「この前も、なんか1人で困ってる奴いたから声かけたんだけどよ、それからどっか行く度にその子がついて来て、特に気にしてなかったけど、それが噂になって俺の彼女って言われてて焦った」
「...どゆこと?付き合ってないってこと?」
「あぁ、付き合うも何も好きでもねぇし」
えぇ?!何その話、フリントは結構変な人に好かれるタイプなのだろうか?大丈夫か…?
「えーと、今お付き合いしてる人は?」
「は?誰とも付き合ったことねーけど?」
「ええええ、意外に真面目!!!!!!」
「は?好きなやつ以外と付き合うなんてあり得ないだろ?」
ええええ?!かなり真面目すぎて驚いた、こう言っちゃなんだけど見た目は結構遊び人に見えてた、ごめん。
それにしても、ちょっとこれは好感度更に更にアップ!!
心の中で彼の好感度がアップしていく中、フリントはぎこちない表情で、私に彼女がいるのかと聞き返してくる
「お前、いんのか....?」
「え、私?もちろん、いないけど」
「なんだよ、そんな言い方されたらいるのかと思うだろ」
「いないいない、興味ないし」
「へぇ?お前モテるのにもったいないな」
「まぁ、確かに顔がいいからね。モテるのは認めるかな」
「ははっ!言うじゃねぇーか!確かにお前はローズ叔母さんに似て、いい面してるもんなぁ!」
何故だか、急に恋バナみたいになって盛り上がってしまったけど、なんだろう…案外楽しいかも。
まさか、自分がこの世界で恋愛話をするとは思わなかったけれど
「母上の様な女性を見ていると、中々恋愛なんて出来ないよ」
「たしかに、綺麗だし優しいもんなぁ」
「うん、過保護ではあるけどね」
「過保護すぎるだろ」
そうだ、母は誰よりも美しく心の優しい女性だ
しかしだ、息子達にはとても過保護すぎるのが難点
「だけど、やっぱり綺麗だよな。もし婚約するならローズ叔母さんの様な人がいい」
ぼそ、っと呟いた彼にえ?と軽く返せば、彼は真面目な顔をして、母への気持ちを語り始めた
「今だからいうけどなぁ……実は叔母さんは俺の初恋なんだよ」
「…え?そ、そうなの?」
結構な発言きた?母がまさかフリントの初恋相手だとは、今の今まで知らなかった。
嬉しい様な、恥ずかしい様な、なんとも複雑な気持ちになってしまうのだが…
でも、今は、って事は、幼少期の憧れの様なものかも知れないし、そういうことは誰にでもあると思うし、特に問題はなさそう
「あぁ、今はもう諦めついたけどな!最近までは会えるのが楽しみだった」
えっと、最近……?ちょっと待って?!
えーと、本気で母の事を想っていたって事だろうか?それはちょっと気まずい…
「えっと、今は、諦めたんだよね?!」
何だか急に冷や汗が出て来た、人を愛するのは自由だけどさすがに、私の母だけはやめてくれ、本当に気まずすぎる
「親戚だからな、キッパリ諦めた」
ふぅー!セーフ…セーフっぽい!
ただ、彼の真剣な様子にマジだったんだと思う
だけども、流石に私の母はお勧めできないからね?
母には父がいる、それに2人はとても仲が良い
流石に親の幸せを崩そうとするなら、徹底的に私が前に出るけれど、フリントにはそんなつもりは更々ないらしいので安心した。
結果的にフリントにとっても、美しい初恋で終わった事はよかったのかも知れない
「素敵な思い出だね、初恋さえもしたことが無い私にとっては、羨ましいよ」
「お前、初恋もまだなのか?」
おやおや?何だその言い方は、自分が初恋したことがあるからって、そんな言い方してるのか?!ルビの方だったら何度か恋に落ちたことはあるわよ、ゼニスは記憶を見る限り、本当に全くないみたいだけど…
「私の初恋は自分自身だからいいんだ」
「いやぁ…流石にそれは、痛いぜ?」
いいんだ、私はゼニス自身が好きなのだから、誰に何を言われてもいいのだ
「まぁでも、これからでしょ?そう思ったら楽しみも増えるじゃない?」
「そだな、そん時は教えてくれよ。俺が相手を見定めてやるよ」
大丈夫かなぁ、あんたは変な女に言い寄られてるイメージしか、今のところ無いから不安だよ、でもその気持ちは嬉しいけどね
「うん、楽しみにしてるよ。それと私もフリントの相手ができたら、是非一度合わせて欲しい、君は変な人に好かれる様だから見定めてあげるよ」
「ははは!そりゃー頼もしいなぁ!そん時はすぐ連れてくるわ」
うん。そうして欲しい、叶わぬ恋をしてしまった、せめてもの償だと思えば彼には素敵な女性と一緒になってもらいたい、そのためには私がしっかりと判断してあげよう。
きっと、女の目から見た方がきっといいはずだ
彼との恋バナもひと段落し、落ち着いた所でふと思い出したことがある
「所でフリント、君、学園は??」
「あー、今日は休み」
.......嘘だな、目がキョロキョロ動いてるし、嘘だとバレバレだ、要するにズル休みしたなこの人
「ニレは学園に通ってるけど…?」
「俺は特別に、休み!」
怪しい、なんでフリントだけ特別に休みなのか知りたい
それは特別な休みではなく、単にズル休みというやつじゃないのか。
「ズル休みだね、学園には行きなさい」
「はぁ、バレちまったか!でも、もう今日は行かねーよ!明日はちゃんと行くから、見逃してくれ!大体お前が倒れたって聞いて、駆けつけたんだからしょうがないだろ?」
ふむ、ただのズル休みと思ったけど、本当に私のお見舞いの為に休んだのだろう
いや、だからと言って簡単に休むものでもない。
ちゃんと学園に通わなければ、進級できないかも知れない
いくら、彼が公爵家の長男だとしても、学園は皆平等に扱う。
出席が足りないと、後々困るのはフリントだ
「君の気持ちはわかった、けど自分の為にも欠席は控えた方がいいよ、進級できなくなったらどうするの?」
「それは大丈夫!今回は親戚が倒れたってことで公欠扱いにしてもらったからな!」
「…ちゃんと考えてるじゃん」
「当たり前だろ?仮にも騎士団の俺が進級できなかったら恥かくだろ?父さんにも怒られる、そんなバカな真似はしねぇよ」
ごめん、その馬鹿なことをしそうで疑ってたのは、私です。フリント本当ごめん、ちゃんと真面目に考えてたのね…
「君はしっかりしてるな…」
「お前はもっとしっかりしてるだろ?」
何だこの人ぉ!なんか凄い良いやつに思えて来た。
最初の印象で、何だこいつって思っててごめんね本当
目の前で、爽やかな笑顔を向ける彼に、何だか申し訳なくて、目頭がジーンと来た、今日は彼のいろんな一面を知れて良かったよ
私は、決して人は見た目で判断してはいけないと言うことを、学んだよ
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