第8話突然の訪問



朝の支度も無事に終わり、タイミングよく呼びに来た、侍女のメイに連れられてダイニングルームへと案内され、朝食も家族と済ませた



昨日の事があり、やけに心配そうに見つめる母と父、そして昨日問題発言をした私を、じとりと怪しむように終始見つめる我が弟セレスト


なんだか気まずい雰囲気の食事だったけれど、美味しい料理を朝から食べれたので満足



それに昨日とは違って、いつも通りの私の様子に、セレストは若干警戒しながらも、少し安心した様子を見せた


彼の様子を見て、流石にまだあどけない弟を心配させた事に、申し訳ない気持ちになった





そして今、食事も終わり自室に戻った私は、ソファーの上にだらしなく横になり、ひたすら天井を見つめていた



「はぁ、暇だ…」



朝の支度はした、朝食も済ませた、しかし何もする事がない。


母に3日間は学園を休むように、と言われたのは良いけれど、正直何もする事がなくて退屈すぎる



この3日間、安静にするようにと言われた為、剣の訓練は体を動かすからダメといわれ、魔法学も病み上がりだから、危ないと禁止令が出た。


一体、どれだけ過保護なんだって話よ


こんなに何もしない事が、つまらないと感じるなんて、昔の私に教えてあげたいくらいだ


前世では、毎朝早く起きて、学校に行く準備をし、結構距離のある高校へと自転車を漕いで通っていた私にとって、今の生活は極楽ではあるものの、やはり何もしないと言うのは正直退屈でたまらない


どうせなら早く学園に通って、魔法の勉強でも受けてみたい、こうやってボーとしているよりは全然良い


ため息をついて天井に向けて腕を上げれば、昨日ニレから貰った伝達鳩の指輪が目にはいった。


そう言えばニレは今、何をしてるんだろうか?



「あ、ニレは今研究室にこもってるんだっけ?てことは、学園休んでるってこと?」



そうだ、彼にお願いをしたのは良いけれど、学園の方はどうなるのだろうか?

もしかして、私のせいで1ヶ月休みを取らなければいけないとか…?

もしそうならば、なんだかとてつもなく申し訳ない。

さすがに、学校には行きなさいとでも、伝えようかなぁ



自分で頼んでおきながら、我儘だとは思うけれど、彼の学園生活を邪魔するのは良くない。

鳩の形をした指輪に、そっと手を当ててみると、昨日光った様に、鳩の形が淡く光りだした


「あ、ニレ?今どこ??」


「おはようございます殿下、今ですか?学園にいます」


「おはよう!おー!ちゃんと学園に通ってる!おっけい!それなら問題なし!……ちなみに制作の方はどう?」


「……?学園にも研究室があるので、そちらでも制作しておりますよ、安心して下さい」


「あ、そっか!ニレの研究室って学園にもあったね、私はニレが学園を休んでるんじゃないかって気になってさ、でも通ってるなら安心した」


「そうでしたか、ご心配ありがとうございます。勉学の方の支障もないので、お気になさらないで下さいね」


「さすがニレ!天才!そして優秀!」


「はは、ありがとうございます。所で殿下……もしかして暇なんですか?」


もしかして、この電話はカメラ機能も付いているのだろうか?なぜ、私が退屈している事がわかったのかと、一瞬ギクリと体が反応した。

一応、どこかにカメラでも付いているのでは?と、鳩型の指輪を確かめたけれど、特にそれらしきものはなかった



「っな、なんでわかった?!」


「なかなか、でんわを切らないところを見るとそうなのかなと思いまして」



ニレの言い方からして、カメラ機能がついている訳ではない様で、安心だ

流石に王太子がソファーで、だらしなく寝っ転がりながら連絡するのは、いくら親しくても見られたくはない



「あ〜うん、その通り暇なんだよね。早く学園に通いたい....」


正直、1人で天井ばかり見つめて過ごすのは無理だ


体も至って健康なのだから、どうせ休みならばどこかに遊びに行くか、誰か友人とお話しでもして過ごしたい



「殿下はいつも頑張りすぎなので、このくらいの休みは必要かと、たまにはゆっくりお身体をお休みして下さい」

 


「それはこっちのセリフだね、頼み事してるからあれだけど、ニレこそたまには休んだ方がいいよ」


「殿下、私はこうやって制作するのが趣味なので大丈夫ですよ、でもありがとうございます」



電話越しのニレは、相変わらず敬語ではあるけれど、どこか楽しそうな話し声をしている


大体いつもゼニスの側にいる彼も、もしかしたら今は、私が居ないのが寂しいのかもしれないな。

なんて、勝手に解釈してしまうけれど、もしそうだとしたら普通に嬉しい



「それならいいけど、兎に角無理は禁物ね。学園終わったらこっちに来る?」


「何ですか?顔を見せに来いと言う事でしょうか?」


「その言い方ー!…まぁ、こっちに来る用事があったら、ついでに寄ってかないかなーって感じだけど?」


「……本当暇なんですね殿下…分かりました。終わったら伺いますね」


「っ!!よしー待ってるね!私がいなくて寂しいだろうけど頑張って!じゃあ!」


「…え?それは殿下ですよね…??あ、失礼します」



何だ何だ、可愛いやつめ。結局は私がいない学園生活が寂しいのは、ニレも同じみたいだ


側近とはいえど、幼い時からの親友でもある彼は、常に私と共にいるから、さっきの電話も普通に嬉しかったのかもしれない


とりあえずは夕方、ニレが遊びに来るだろうから、それまで王宮内を散歩でもしとこう


せっかくクリスチャンにかっこよくセットしてもらったんだし、自慢して歩かなければ。


早速部屋を出ようと、立ち上がったタイミングで、メイちゃんが慌てたように私を呼んだ


何だかやけに、そわそわしている様子が不思議に思い、扉の方に向かえば、まだ許可していない扉が勢いよく開いた



「おぉー!!ゼニス見舞いに来たぞー!なんだぁ、案外元気そうにしてるじゃねーかよ」



バターンと、激しく扉が開く音と共に現れた人物に、声を出すのも忘れて固まった

こちらが返事をする前に、スタスタと図々しく部屋に入って来るこの青年は、良く知っている



「す、すみません殿下、お待ちいただくようにお伝えしていたのですが……」



彼の勢いに圧倒され、侍女のメイは目を潤ませて、申し訳なさそうに頭を下げた。

あの男の性格を知っているからこそ、彼女に対して優しく大丈夫だよと返すが、メイはとても申し訳なさそうに更に深く頭を下げてから下がって行った。


全く、私の可愛いメイちゃんを困らせるなんて


小さくため息をつくと、後ろのソファーで既に寛いでいる男の名を呼んだ



「やけに荒々しい登場だね、フリント」



黒髪に、真っ赤なガーネットの宝石眼を持つこの男は、ゼニスの従兄弟、フリント・ガーネット


母の兄であり、ガーネット公爵の長男、そして次期公爵の彼の性格は、体育会系

ゲームではニレに続いての、攻略対象キャラだが、まさかこんなに早くにご登場とは。



「お前が倒れたって言うからお見舞いに来たんだよ!でも、心配して損したわ。普通にピンピンしてんじゃん?」


この口調、親戚だからって王太子に向かってなんてやつ。それに勝手に置いてある茶菓子をむしゃむしゃ食べてるし。

まぁ、顔は確かにイケメンだけど、この性格よ…




一気に退屈は吹き飛び、代わりにとんでもない嵐がやってきた…











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る