第7話カリスマ美容師



深夜の静けさとは違い、朝の王宮は人が増える

侍女や従者達が起きて、朝の支度を始める音が聞こえる、この時間はとても賑やかだ。


廊下は静かに歩きなさい!と、侍女長に注意されている新人メイド達や、窓の外から可愛らしい小鳥の鳴き声を聞けば、平和な日常の始まり



窓から光が入り込み、眩しくて徐々に意識が戻っていく。

ゆっくりと重たい瞼を開ければ、昨夜の真っ暗な光景とは違い、別の景色が見えてきた


柔らかなベットから手足を伸ばし、グーっと腕を伸ばせば、相変わらず聞きなれない自分の声が漏れた。


しかし、なんだか昨日の目覚めとは違い、今日は清々しく、とてもいい気持ち


ゆっくりとベットから体を起こし、一旦周りを見渡せば、やはり1人部屋にしては広い部屋


この部屋を見れば、自分は改めて王族なんだと朝から思い知らされる



「あと、5人ぐらいは一緒に住めそう」


シェアハウスとかできそうじゃない?

流石にキッチンはないけど、お風呂はついてるし、トイレだってある。

部屋も他に4つも付いてて.....ってか、ありすぎでしょ


クローゼット部屋2つに、ゼニス専用の剣のコレクションルーム1つ、あとは客室、そしてリビング兼寝室、これまたかなり広いものだ


しかも、私の部屋以外にもこの王室には、何室もあるし、一体残りの部屋は何に使うのやら....

まぁ、ほぼ客間が多いみたいだし、お偉い様をもてなす部屋が多いのかもしれない



「考えるとキリがないからやめとこう、とりあえずは、このベットから出てソファにでも行こうかな」



よっこらせとベットから降り、リビングのソファの下へ歩いていけば、タイミングよく部屋のノックが鳴り、可愛らしい声の侍女が朝の挨拶を始めた


たしか彼女の名前はメイちゃんだったかな?


どうぞと返事を返せば、ゆっくりと扉を開けて昨日私のお世話をしてくれていたメイちゃんが入ってきた。


朝の支度だろうか、蒸しタオルと大きな桶を抱えて持ってきたメイに、テーブルの上に置いてもらうとお礼を伝えた。


メイは落とさないようにと、慎重に水の入った桶をテーブルの上へと置くと、また頭を下げて部屋から出ていった



「朝の支度が先だね、顔でも洗おう」



慣れた手つきで顔を洗い、蒸してある温かいタオルで顔を覆うと、暖かくて気持ちがいい

朝からなんて贅沢なんだと思いつつ、自慢の顔を整えると次は洋服だ。


昨日は最初から寝巻きを着ていたから、特に何もする事はなかったけれど、問題はここからだ



──見て、良いのだろうか…?このゼニスの体を……



なんだか、絶賛思春期の女子高生の私としては、男性の体を見るのは恥ずかしいものだ。


といっても、こうしてても仕方ない訳で、ちゃっちゃと着替えなければ進まない



「殿下、お着替えのお手伝いに参りました」


「どうぞ」


ちょうどのタイミングで従者の声が聞こえてきて、ついつい返事を返してしまった

咄嗟にどうぞ、とは言ったものの招き入れた人物を見て、私は激しく後悔した


入ってきた男性は、黒髪の似合う40代の男性

しかも端正な顔つきの、ダンディーな。


考えてみればゼニスは男、だから着替えを侍女達が手伝うはずがない訳で…

いつも通りの彼の行動なのだろうが、今の私はか、な、り緊張している。


彼は困惑している私の事など気にもせず、せっせと手慣れた様に次の服装を選び、素早く脱がせていくのだが、さすがに慣れた手つきの彼にされるがままになってしまい、正直恥ずかしい



「あー!自分で脱ぐからいいよ」



「そうですか?では、着付けの時にお手伝いいたします」


下着姿にされる前に、待ったをかけた私は自分で脱ぐと宣言し覚悟を決め、自分で下着姿になった

今はもう私の体なのだから一旦、気にするのはやめよう

とりあえず、後ろで待機している従者、クリスチャンに声をかけ、手伝ってもらう事に。


彼が選んでくれた洋服に、腕を通していくと、肌触りも良くてかなり着心地が良かった

彼の手伝いもあり、無事に着替えも済んだ所で次はこちらにと鏡台の前に案内される


「では、こちらに座っていただけますか?」 



次は鏡の前に案内され、置いてある椅子に腰を落とせば、髪のセットが始まるようだ。


美容サロンだと思えば、普通に大丈夫そうだと思いながら、鏡に映る自分の姿を見つめる


やはり今日の私も安定のイケメン、多少寝起きで寝癖が付いているけれど、それもなんだか可愛いくて、悪くない。


ぴょこんと飛び跳ねる寝癖を、柔らかいブラシで解かしている彼に、身を委ねた。


ただ、思うのは私が女性だったら、お姫様みたいに綺麗に着飾ることができたのに、まさか男として、こうやって施して貰えるとは想像もしていなかった。

本当、人生とは、どうなるか分らない


手慣れた手つきで、優しくブラシで解いていく従者はどう見てもプロで、従者ってなんでも出来て凄いと感心するしかない



「殿下、前髪はどうしますか?」


「うーん......そうだなぁ、上げてみようかな?」


「承知いたしました、ではその様に致します」



ゼニスの前髪あげるスタイルは、正直見たことないから頼んだけど、一体どんな感じになるのだろうか?

鏡に映る自分の顔を見ながら、今日のスタイルに期待こめた。




「出来ました、こんな感じでよろしいですか?」



クリスチャンに言われて改めて鏡を見れば、あら不思議、鏡の前にいるのは絶世の金髪イケメン男子様


いつもは、前髪を垂らし、美青年な雰囲気だけれど、今日の私は少しワイルドさがでており、とにかく最高だ、合格!!


我ながらどんな髪型も似合うのだから、流石としか言いようがない。

やっぱり元がいいと何でも似合うってことか、凄い




「気に入った!」



「殿下は何をしてもお美しいです」


「ありがとう、クリスチャンのおかげだよ。またよろしく頼むね」



またよろしくと握手を求めれば、私から握手を求められる事に困惑していたけれど早く、と目で訴えれば、恐れ多いですと言いながらもしっかり握ってくれた



彼の腕を見込んだ私は、今日からカリスマ美容師と呼ぶ事にする

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