彩季-ちょっと下品な話


 大したことではないはずなのに、自分の部屋に自分以外の他人がいる、ということはなかなか非日常感というのが強いのかもしれない。それは家族であり、妹である皐だとしてもそうだし、恋人である愛莉に対しても同様だ。


「えっちな本とかあるかなぁ」


 わくわく、と言ったような声のテンションで、俺の部屋の中を漁ろうとする愛莉の姿。俺は一瞬動揺したけれど、ふっ、と勝ち誇ったように息を吐いた後に、何も気にしないというようにベッドの上で座り続けている。


 エッチな本、つまりはエロ本なのだろうけれど、そういったものは今の男子高校生はなかなか持ち合わせるということはないだろう。


 今時、そういった官能を目的としたものならば、ネットを探せば見つけ出せることができてしまう。大抵は有料だろうが、中には無料でそれを参照することもできるとか、なんとか。確か、そんな話をルトから聞いたような気がする。


「……なにその勝ち誇ったような顔」


「別に勝ち誇ってなんかないさ。気がすむまで調べればいい」


「その言葉がもう勝ち誇っているような雰囲気ぷんぷんなんですけどね」


 そういって、愛莉は諦めたように俺の隣に座り込む。彼女が隣に位置した瞬間、彼女の香りが、心地のいい匂いが鼻腔をくすぐって、視線をどこか違う場所に移したくなる感覚に襲われる。


「実際、そういったものはこの部屋にないからな」


「……男子高校生なのに?」


「男子高校生なのに」


 俺は彼女の言葉をそのまま返しながら、優越感のようなものを感じていた。


 ……そういったものはこの部屋にはない。そして、前述のような電子的なエロい代物というのも、俺のものの中には存在しない。


 ルトからそういった話を振られてしまったときがあるけれど、いまいち興味というものが湧かないから、彼の話を聞くことしかできなかった。そんな俺が官能的なものをたしなむ、ということはないのだ。


「それなら携帯見せてよ」


「いいよ」


 俺は特に後ろめたいこともないから、即答をした後に携帯を渡してみる。見られて困るようなものもないからパスワードもかけていない。


 愛莉はそれを受け取ると「拝借させていただきます」とかしこまった雰囲気で電源ボタンを押して、携帯の画面を開いていく。


 隠し事はしたくないし、隠すようなこともしたくはない。だから、これからも携帯にはパスワードとかをかける予定はないし、いつまでも健全なままスマートフォンを使っていくことになるだろ──。




「ラブホテル 入室 やり方」




「──え」


「ラブホテル 高校生 大丈夫」


「ちょっ──」


 ──彼女が読み上げているのは、クリスマスより前、事前に調べていた検索履歴である。


「ラブホテル コンドーム ある」


「すいません、待ってくださ──」


「性行為 痛くない マナー」


「すいません本当にこれ以上は勘弁してくださ──」


 ──そのあとも、彼女による検索履歴の朗読は止まることはなく、ひたすら羞恥をくすぐられ続けた。


 ……今度から、検索履歴はきちんと消さなきゃならない、という確かな教訓を俺に刻んで。

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