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第一章
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先日戦死したフォルスワーム大将軍の娘、リーリアント・フォルスワーム。
彼女には逸話がある。
過去――王国最大の武術大会で、たった四歳の女の子が勝ち上がった。
重装兵を拳ひとつで悶絶させ、騎士団長も吹っ飛ばした。
そうして、決勝に勝ち上がった者を相手するのは、国王の務めだった。
皆が国王――エディルⅡ世に注目した。
だが、エディルⅡ世は、皆と同じように四歳の女の子に負けたという屈辱を味わいたくなかった。
考えて考えて――
「私から面白い提案がある。大人の勝負をしないかい?」
目線が女の子に合うよう、しゃがみこんで笑顔を浮かべて言った。
「大人のしょうぶ?」
女の子は興味津々だ。
しめたと思ったエディルⅡ世は、妊娠七カ月の王妃を指して、
「あと二カ月で私の子が産まれる。
その子が女の子なら君の勝ち。君が将来この国の大将軍になる。
男の子なら私の勝ち。君がその子の妃になる。
賭けっていう勝負だよ」
女の子は――にっこり笑って頷いた。
二カ月後、ユージーンが産まれ、賭けはエディルⅡ世の勝ちとなり、女の子は妃となる運命を受け入れた。
だが――女の子は幼く、賭けがどちらに転んでも、エディルⅡ世は損をしないことに気づいていなかった。
女の子はあまりの強さゆえ、すぐに武の精霊憑きではないかと調べられたが、武の精霊憑きではなかった。
この化け物を生み出したのは誰かと言えば、当時辺境伯だったスフィル・フォルスワームだった。
スフィル・フォルスワームは、娘に基本的な武術は教えたが、ここまで強くなる心当たりはないと回答したが、おそらく父親にも才能があるのだろうと将軍に取り立てられ、その後実力で大将軍になった。
一方、女の子――リーリアント・フォルスワームは、王子妃教育の合間に王宮内のあらゆる武人に教えを請い、素手でも王宮に勝てるものなし、武器は何でも扱えて、持ったときの能力は未知数と言われていた。
武の精霊憑きではないかと何度も調べたが、陰性だった。
スフィル・フォルスワーム大将軍が戦死し、化け物娘を大将軍にとの声もあった。
だが、彼女は第二王子妃となることが先約されており、それは無理だった。
重鎮たちは、エディルⅡ世が余計な賭けをしたばかりに……と愚痴ったという。
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