第一章 1

第一章


1,


 世界の勢力図は、大きく崩れた。


 三つの大国が睨み合い、均衡は保たれていた。周辺の小国も大国に左右されながらも、安定していた。


 だが――大国の一つ、メルフィース帝国が、とんでもないものを手にした。

 先天性精霊憑きの第四皇女だ。


 白銀の弓姫と呼ばれた市井の上級冒険者を母に持つ皇女は、母から継いだ魔弓の才能を精霊によって強化され、人間兵器と呼ばれるほどの力を持っていた。


 メルフィース皇帝は、「力ある者が弱者を治める」と、他の二つの大国に宣戦布告。

 まずは東の大国とぶつかったが、そこに若輩ながら才能あるスウォード・ドルメット将軍を派遣した。

 だが、その軍には、第四皇女リーリアント・ジュレア・メルフィースが同行していたのだ。

 東の大国の軍は、メルフィース軍と剣を交える前に、リーリアント皇女の遠方からの魔弓の連発で滅んだ。


 北の大国も同様に制覇された。


 残ったのは周りの中小規模の国々だが、あっさり白旗を上げた国以外、メルフィース軍によって制覇されている。


 流石に第四皇女は一人しかいないので、大国二つを滅ぼしたあとは自軍の将軍たちに任せているが……。

 それでもメルフィース軍は圧倒的だった。


 世界制覇も近いかという頃、まだメルフィースに抗っている国があった。


 トルメリア王国。国王エディルⅡ世は抗戦を選び、やってきたメルフィース軍に対し大将軍フォルスワームの軍を派遣した。


 フォルスワーム大将軍を失ったが、敵将を打ち取り、メルフィース軍の第一陣を退けることには成功した。


 異例のことである。メルフィース軍が退けられたのはこれが初めてだ。


 トルメリアは快挙に喜ぶとともに、次の侵攻に備えなければならなかった。

 そして――秘密裏に、第二王子を後天性精霊憑きにした。


 メルフィース軍はまだこれを知らないはずだ。それがトルメリアの切り札だった。

 何しろ、第二王子に降りた精霊は人型だ。


 精霊憑きの精霊は、まず具現化できるかできないかで能力が違う。そして、人型は滅多になく、最強と言われている。

 メルフィースのリーリアント皇女の精霊は、具現化できるが動物型との噂だった。


 エディルⅡ世にとって、最後の頼みの綱だった。



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