事故物件に住んでいる新米作家

 私が住んでいるアパートの空室が一向に埋まらないのは、もしかして事故物件だからだろうか。

 最近、ふとそんなことに気がついた。


 静かだし自分の生活音にも気を使わなくてラッキー!

 職場へのアクセスは悪いし家賃も高めだけど、快適さが段違いだから今のところ引っ越す気はないな!


 と思っていたけど、もしかして私が感じる快適さは「事故物件だから」という理由によってもたらされているのか?


 麗しの我がお城は、別に過去どなたかがお亡くなりになったとか剣呑な事件があったとかではないのだけど、内見に来た方が外観を見た瞬間に「うわっ、このアパートやば……」とUターンするレベルで分かりやすいポイントがある。


 詳細を伏せて曖昧に説明すると、なんというか……「毎晩、夜になると一人の住民が共有スペースに魔法陣を描き、謎の生肉を生贄として捧げている」「夜勤の私は、毎日それを『生贄だ〜』と思いながら出勤している」みたいなタイプのヤバさがあるのだ。これは例えだが、わりと直喩でもある。被害者が出るような事件は起きていませんが、精神衛生上よろしくない映像が流れております的な日常がそこにある。


 ちなみに、結構な頻度で宗教勧誘も来る。


 内側からは謎の儀式、外側からは宗教勧誘。

 生きる世界の違う方々と共に生きている、ということにして快適に過ごしている。


 でも、私は困ってなくても、たぶん毎晩魔法陣を描いている人は大変だよなぁ……?


 私が住んでいる東北は、ただいま着実に外気が冬へと向かっている。

 寒い夜に起きて活動をして生肉を捧げるのだって、肉体労働だし。それで体を壊したら大変だ。


 現在、私が住んでいるアパートは私とその魔法陣氏しかいない。

 一つ屋根の下、お互いに走馬灯に残りそうな共同生活を送っている。


 でも魔法陣氏にとって、この大変な日々は一刻も早くモヤモヤとした霧の向こうにある蜃気楼のような過去になるべきだ。

 そのために私ができることはきちんとやらねばいけないですね。


 これを日常として流さないために、私は一念発起してこの場所を「事故物件」として認めることにした。


 私はこれを異常として認め、正常に戻すための努力をするべきなのだ。


 ああ〜、ままならない。

 誰も悪くないんだけどな〜!


(注:私自身はとっても無事だしとっても元気です!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る