『反吸血鬼 キラ・ドゥーラ』 その10


 品の良い喫茶店だ。


 いまは、シューマンが流れている。


 『交響的練習曲ですね。』


 ふみたにが言った。


 『さすがですね。お弾きになりますか?』


 『ぶっ!』


 ふみたいが吹いた。


 『まさか。難しすぎです。』


 席の下では、ふみたにが、ふみたいの足をつねっていた。


 『たしかに、難しい作品ですね。良かったら、一部だけ、弾いてみましょう。』


 『え?』


 アンドルーは、席を立ってカウンターに向かった。


 カウンター席には、また、やましんが座って、うつ向いて、ひとりぶつぶつ言いながらスマホを掴んだまま悩んでいた。これを書いていたのである。


 すると、アンドルーが言った。


 『マスター、ちょっと弾いていいかな、お客さんのために。』


 『いいですよ。これよりも、いい演奏するなら。』


 『あちゃー、これはポリーニさんでしょ。それは無理。多少お目こぼしを。』


 『まあ、仕方がない。ギャラなし。』


 『あいよ。』


 マスターの目がキラリと輝いたのだ。


    ✴️


 『あのひとも、マラ・クータね。なんだか、この店、怪しい。』


 キャサリンが、紅茶を頂きながら呟いた。


 『ああ。マラクータだらけだな。やはりな。ここが、巣だな。』


 『あのふたり、連れ出さなくちゃ、やられるわ。でも、カウンターの、やたら、くらーいおじさんは違うわね。』


 『あれは、このお話の作者だ。』


 『なんだ。じゃあ、ほっといていいわね。』


 『ああ。害はない。』


 そこで、レコードの演奏が止まった。


 アンドルーは、立派なピアノの前に上着の裾を、ばばっとはね上げて座ると、即座にピアノを弾き始めた。



    🤘 🎹🎹🎹 🤏


 


 


 


 


 


 

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