『反吸血鬼 キラ・ドゥーラ』 その7
それで、はからずも、まさに、はからずも、ふみたに、と、ふみたいは、銅座町で、ばったりと、出くわすこととなった訳なのだ。
銅座町は(現実の地名とは関係ありません。以下同じく。)、近くにある銀座町に比べると、やや、地味でちょっと薄暗いように調整している。
これは、特徴を訴えるための戦略であった。
しかし、そのために、銅座町は、クラシック音楽とか、文学とか、美術とかにわりに縁が深く、歓楽街としてはむしろ異様であった。
街角では、音楽家の卵たちが、ベートーヴェンのピアノ・ソナタを演奏したり、シューベルトを歌ったりしている姿をよく見かける。
稀にではあるが、そこからスカウトされて、有名になった人もあるため、街角芸術家は後をたたないのである。
しかし、だから、マラ・クータがいないと言うわけには行かないのだ。
街角芸術家が、マラ・クータであることは実際にある。
しかしだ。そこが、なかなか、難しいのだ。
音楽を愛するマラ・クータがいたって、ちっともおかしくはないのだから。
だから、なんとなく気が合って、ふたりでどこかに消えてしまうなんてことは、当然にありうるのである。
問題は、誰がマラ・クータか、誰がキラ・ドゥーラかなんてことは、実は仲間同士でさえ、ときには見分けがつかないらしい。
しかし、だから、仲間内かどうかを確認する手法が作られてはいるらしいのだが、まだ、そいつも判ってはいない。
『あんた、なんでここにいるの?』
ふみたいが言った。
『あんたこそ、なにしてるのさ。』
ふみたにが応じた。
『あたしは、警察官だから、どこにでもいる、普通にいるのよ。あんたこそ、なんでここにいるのよ。』
『取材に決まってるでしょ。』
『なにを?』
『そら、秘密よ。あたりまえでしょ。あんたこそ、なに、嗅ぎ回ってるのよ。』
『秘密よ。あたりまえでしょ。』
『ふうん。』
そして、ふたりの目の前には、かなりいかした金髪のピアニストがいて、ショパンを弾いていた。
ピアノ自体は、町の備え付けのものだ。
『バラード第1番ね。』
『しってるわ。』
実際のところ、妹の方が、クラシック音楽には遥かに詳しかったのである。ピアノもある程度は弾けるのだ。しかし、ふみたいは、かなり負けず嫌いである。
『このひと、ちょっと、いかすわね。』
と、がらにもなく、ふみたいが言った。
『まあね。でも、一流ではない。音にちょっとばらつきがあり、ハーモニーに統一感がない。』
『個性よ。』
『基本が足りないわ。』
すると、ピアニストがにっこりしながら振り向いた。
『ありがとうごさいまーす。なにか、ご所望は?』
『シベリウスを聴きたい。』
ふみたにが難しいところを突いた。
しかし、そのまだ若い青年は、さらににっこりした。
『では、‘’ロマンチックな情景‘’、作品101の5、弾きま↗️す。』
青年は、また、ピアノに向かった。
実は、植え込みの反対側には、なぜだか、キラ・ドゥーラのトップ隊員二人が隠れていたのだが、それは、ふみたいたちには判らないことである。
ついでに、作者のやましんが、かなり暗闇にまみれるように、半分後ろ向きで聴いていた。やましんは、シベリウスにはうるさい方である。
ところで、トップ・キラ・ドゥーラは、マラ・クータを見抜く天性のテクを備えている。それは、極めて貴重な才能であった。
😃💡
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