百角獣になりたい!
外清内ダク
百角獣になりたい!
「生まれつき
とうとう一角獣が泣きだしたので、医師は困り果てて天を仰いだ。最近はこういう患者が多くて困る。とにかく全部メディアが悪い。
「まあ落ち着いて」
医師は一角獣を落ち着かせようと、
「角の数で獣の価値は変わりませんよ。あなたは今のままで充分魅力的なんです」
「そういうの聞き飽きてます。医学的には可能なんでしょう?」
「そりゃあ、まあ……」
「やってください」
一角獣の縦割れした瞳が「ここでダメなら他の病院へ行くまで」と、ハッキリ物語っていた。
「私を
*
人類滅亡後に
こんな体の特徴を、流行り廃りで良し悪しするのはぜんぜん理にかなってないことだが、そんなふうにスッパリと割り切ることもできないのが獣の情、
一角獣の願いは聞き届けられた。外科的手術によって、二本目の角が移植されたのだ。もともと一角獣の角は
一角獣は鏡を見て大満足し、涙を流しながら医師に礼を言った。
「これで私も獣になれます」
ずっとコンプレックスだった角の問題を解決して病院を出ると、世界がまるで違って見える。目にするものすべてが美しい。空も雲も街も獣もみんなキラキラ輝いている。一角獣は溜息をついた。ああ、自分に自信があるというのは、こういうことなのか。変わったのは自分自身。でも、その変化が自分以外のあらゆるものを変えてしまうのだ。
ところが、一角獣の感動は、そう長くは続かなかった。
その年の終わりごろ、大手SNS「Y」において、こんなポストがバズったのだ。
『いまだに「
*
一角獣は愕然とした。
「うぇひひひぃぃん!」
一角獣はいなないた。そんな! せっかく
「三本角にしてください!」
というわけで、左側頭部に巻き角を追加した。
だが年明けには、
『ヘクサケラータが今年のトレンド! (※ヘクサケラータ=六本角のこと)』
六本! いきなり六本! 一角獣は涙目になった。なぜ六本? なんで年が明けたばっかりで今年のトレンドが分かる? というか『ヘクサケラータ』って何それ、
半年後『角14本の秋色スタイル』
年末『ぜったいハズさない初詣21本角コーデ』
初夏『夏の愛され42角獣』
流行はどんどん移り変わっていく。すさまじい勢いで角が増えていく。もう一角獣の顔面はどこもかしこも角だらけで新しく生やすスペースが足りず、首や肩にまで角を埋め込んだ。朝起きて大きく背伸びをすると両肩の角がほっぺたに刺さって困るのだが、その程度のこと、カワイくなるためなら問題ではない。
半年が過ぎた。一年が過ぎた。背中にも生やした。膝にも生やした。もはや一角獣とは呼べない。全身角まみれになったその姿は、百角獣。まさに百角獣と呼ぶにふさわしいものであった。
百角獣は、角で画面にひっかき傷を作らないよう苦労しながらスマホをいじり、今日もファッションブログに目を通していたが、その中に驚くべき記事を発見した。
『角増やしすぎの時代は終了! 一角獣が最強カワイイ!』
そのあと百角獣がどんな道をたどったのかは、誰も知らない。
THE END.
百角獣になりたい! 外清内ダク @darkcrowshin
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