バイト1日目:ここで働かせてください

 2日目は空気のように過ごした。カリバーとムーサは心配してくれた。というかムーサが心配してくれたの意外だったな。

 そいつら以外はバイザーのヘルメット取ってきてくれた彼。あいつも声をかけてくれた。優しさが骨身に染みる。

 2日目というか1日目の晩飯からすごかった。


「そーいやあの騎士サマ、シュミレータで人発狂させたらしいぜ。」


「まじ?さすがに嘘だろ。」


「いやいや、シュミレータのあいつ見たろ?ライフル弾が~ってうなってたやつ。」


「普通に悪夢見たわけじゃなくて?」


「ああ、50回以上瞬殺されたらしい。」


 こっちも広まってた。二重、いや騎士含め三重の有名人になった俺も、今日が終わりの日だ。


「何かなくても連絡してくれよ!」


「おう、ありがとうな。行ってくるわ。」

「それと、」


「?」


「I'll be back!」











「有名な映画のセリフだ。」


「言わなくていいんだよそういうのは!」


「じゃ、いってらっしゃい。」


 あの時ぐらいかっこよく決めたっていいじゃないか。まったく。

 住居は軍が部屋を用意してくれているようなので、あとは職探しだ。とは言っても当てはあるんだけどね。


「ビリーのおっさんお疲れ。」


「おうクソガキ。無職になったんだって?」


「そうなんだよ。てなわけでバイトとして雇って。」


 ビリーのおっさん。整備士兼メサイアパーツショップをしている。ヒートブレードの内部に爆弾をつける案を言ったら正気を疑ってきたおっさんだ。

 メサイアは軍用だけでなく民間用もあり、廉価版を建築に使ったり企業が広告塔や私兵として保有していたりする。あとは警備会社とか。

 だから意外と需要はあるわけだ。ビリーのおっさんは腕もいいし各企業にパイプがあるのでパーツが届くまで早いし細かいカスタムまで完璧にしてもらえるとかなりの人気店。あとはジャンクから作ったパーツも販売している。売れ行きはぼちぼちらしい。


「バイト雇うほどのあれでもねぇんだよ、人手不足。接客ぐらいしかねぇぞ?」


「あるなら是非。」


「あとは……自作パーツの宣伝要員だな。」


「なにそれ。」


「ジャンクから作ったあれだよ。それで組んだ機体のデモンストレーション。利益が一番出せるし性能も胸を張っておすすめできる。デザインだって悪かねぇ。だからこいつをもっと広めたいわけよ。」


「ほー。」


「で、どうする。」


「兼任で。」


 無事に雇ってもらえたので早速店頭に、とはいかないので棚の配置を変えたり掃除をする。メサイアはでかいから棚におけるサイズのホログラムが使われることが多い。ぐちゃっとしていたので開発元ごとに並べておいた。せっかくの職場にケチをつけるのはあれだが、


「今の時代に箒ってさぁ……」


 あとエプロン。ここは花屋じゃないはずなんだけど。


「CC-2079-hwってあります?」


 あと型番で言ってくるお客さんもいるし。


「あー、ちょっと前に売れちまったな。追加発注と取り置きは?」


「お願いします。他に何かいいの入ってますか?」


「そうだなぁ、お客さんの好みだと……」


 分かるおっさんもおっさんだな。


「……そのほかには最近売り出しているうちの自作パーツだ。もとはジャンクだが性能は保証する。」


 お、営業掛けた。


「うーん、とりあえず見せてもらっていいですか?」


 意外といける?


「これは展開時間と範囲に特化したシールド。奇襲を受けた時なんかに便利なんじゃないかと思って作ったんだ。いくら警備が仕事でもずっと盾を起動してるわけじゃないだろ?」


「たしかに……共和国の肩シールドは展開まで遅いんですよね。」


「その分防御性能が高いんだがな。一長一短だ。」


「少し上に掛け合ってみます。」


「おう。いい返事を期待してるぜ。」


「では、パーツが届いたら連絡ください。」


「おう!」


 あれがお世辞か分からないけど意外と行くもんだな。


「な?ここまでは行くんだよ。ただなかなか許可が出ないらしい。『信頼できない!』とか何とか言われてな。」


「そこで俺の出番。」


「そうだ。いずれは実際のネメシスでやるがまずはシュミレータで見せる。」


「ふーん。」


「お前、どんな機体でも乗れるんだろ?」


「既存の組み合わせだったら大体。ワンオフ機は本人の癖に合わせてるから無理。」


「ならいい。うちのパーツのデータはこのシュミレータにしかないからあとで乗って試しとけよ。」


「うぃっす。」


 さっさと掃除して乗るか!


 ☆☆☆


 Made By Billy、頭文字をとってMBBシリーズは一部の需要を満たしたパーツが多い。さっきの速度重視シールドやビームの安定化・高威力化を図った糸鋸ビームブレード、ただひたすらに頑丈な腕部、跳躍力が高くブースターに頼らない上昇が可能な逆関節の脚部など。


「癖しかねぇなぁ……」


 一長一短、まさにその言葉に尽きる。速度重視シールドは長時間展開が排熱の関係上できない、糸鋸は突きができないのと向きが限定される。腕部は反動制御システム未搭載、脚部は重めだし関節部が一個多く、それも結構露出している。


「これだけで統一すると器用貧乏にすらならねぇな。」


 共和国軍用機体に換装する形で取り付けよう。


「逆関節一回使ってみるか。」


 逆関節構造の脚部は二世代ぐらい前のネメシスで一瞬出たが、動かせないパイロットの方が多く関節部の問題と構造の脆弱性により消えた。それから発売されていない。形状は犬や猫の足のように足が引っ込んでいるといった感じ。ひざの高さの関節が逆向きだから逆関節。ご存じの通り逆に見える関節は足首部分なんだけどな。


「名前はリサイクル1でいいか。」


 どうせすぐ消すし。

 早速作ったのでシュミレータを起動。


「うっわ足つら。」


 足首からつま先まで長すぎる。歩きづら過ぎる。普通に走れない。


「これは使われないわ。」


 ジャンプはやりやすい。二脚とは比べ物にならないほど跳べる。地面を蹴りつければ前方にかなりのスピードで突っ込む。

 ただかなり独特だ。ブースターを利用した移動が前提のネメシスで素の運動能力を脚部に求めることはない。ただこいつの売りはそこだ。


「うーん難しい。」


 絶対に趣味で作っただろうと問い詰めたくなるな。

 ただ、都市部など壁面の多いところでは壁を蹴って移動できるのは面白い。ブースターも絡めればなかなかに変な挙動が出来そうだ。ただその分Gもかかる。


「うーん。」


 現実で買うなら糸鋸レーザーブレードかなぁ。


 コンピュータを出して戦ってみた結果、


 ・ブースター起動までに地面を蹴って初速をつけられる

 ・ブーストよりも跳んだりする分接近戦になってもヒット&アウェイがしやすい

 ・踏ん張りは効かないので逆噴射は必須

 ・壁キックでブースト中に軌道を無理やり変えやすい

 ・キックは真っ直ぐ出さないと折れる


 ということが分かった。使いやすくはない。

 ただ相手のロックオン機能から外れることは出来そう。機体が常に相手の正面に向くようにしていると頭部カメラ外のことはこれまでの映像からの予測で動くのでその予測から自機が捉えられる前にもう1つアクションしてやれば外れる。そして逆関節だと跳躍があるのでしやすい。

 あんまり機体の向きは固定しないので関係ないが。これ有効にしてると酔うよ。


「まあ慣れていけばだな~。」


「お、どうだった?」


「絶対趣味でしょ逆関節脚は。」


「そうだが?」


 だよな。ビリーのおっさんの自作なんだからそらそうか。

 結論としては逆関節はあんまり。今度は重量二脚機にでも乗ってみるか。


「んじゃ、これからもよろしくな。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る