入隊1日目:嘘のようで本当
翌朝、ジャケットを羽織って部屋を出る。端末に送られた情報をもとにイエロージュエルのガレージに向かわなければ。
その前に朝ご飯です。今日はパンだな。パンにコーンスープ、サラダとベーコンそしてスクランブルエッグ。ブラックエッジは時間が吐くほど早いのでぼっちだ。
パンがふわふわでうまい。農家と料理人の皆さんに感謝。
「おい。」
ベーコンもカリカリに焼いてくれていてとってもありがたい。
「おいって。」
スプーンの反射で見るが昨日のあいつだ。初出勤日の朝から何やってんだか。
そんなことよりそのスプーンを使いコーンスープを掬う!うまい!
「無視してんじゃねぇ!」
机を蹴っ飛ばされた。その衝撃でカリカリに焼かれたベーコンが床にっ!
「てめぇぇぇぇぇぇ!!!!」
野郎ぶっ殺してやる!
椅子で頭をぶん殴る。勉強しかできてねぇ頭でっかちのおかげか一撃で転倒。
馬乗りになって完全に気絶するまでぶん殴る。
「あ、そこの!こいつの部屋知ってる?」
顔をこわばらせながら激しくうなずく彼。
「えーと、こういうやつはズボンに……あったあった。こいつの部屋からヘルメット持ってきて。」
鍵をさっきの彼へとぶん投げてネメシス用のヘルメットを取ってきてもらう。パシリのようで悪いな、飲み物とお菓子買って来よう。
すぐそばの売店で買ってきて数分、走ったのであろう汗をかいた彼がこちらに来た。
「んじゃこれ。ありがとうね。」
さ、こいつにトラウマ植え付けて二度とネメシス乗れないようにするぞ~。
☆☆☆
「よう。お目覚めか?」
「ここは……?」
「シュミレータ。ベーコンのお礼参りってわけ。」
落ちたけど食べたし残ってた分もしっかり食べてから来たぞ!
「さぁ機体を選べ。なんでもいいぞ?」
俺が今回使うのはスナイパー機体『スナイパー4』。普通の防御装甲のネメシスなら一発でぶち抜くスナイパーライフル、左肩のジャミング発生装置、右肩に広域レーダー。近寄られたらライフルでぶん殴るしかないネタ機体だが今回はぴったりだ。
「パイロットファング、ネメシス『スナイパー4』発進。」
「パイロットバイザー、ネメシス『ビーバーテイル』発進……っ!」
後ろに向けてブースターを吹かす。ビルの裏に隠れ、レーダーでこいつ……バイザーって言ったか。バイザーとの間に建物が絶対に挟まっているようにしつつ距離を離しておく。
レーダーを確認。ブースターすら使わずうろちょろしてる。お!出力を上げたな?
どうやら俺の初期位置近くに行くようだ。これまでの進路的に直線で向かってる。じゃあ移動して射線を通そう。
「ほい1キル。」
『YOU WIN』
二戦目
同じように撃墜。
三戦目
同じように撃墜。
四戦目
同じように撃墜。
五戦目
真正面からライフルで撃墜。
六戦目
武装を取り換えてドローンにした。
撹乱して撃墜。
七戦目
ドローンからの射撃で振り向き始めてて笑った。
八戦目
レーダーを乗っけてブレードで突っ込んできたがライフルのフルスイングで撃墜。
九戦目
デコイに釣られたところにライフル。
十戦目
割愛。
十一戦目
割愛。
……
五十二戦目
鼻水の声が聞こえる。
五十三戦目
発狂してブレードで襲い掛かってきた。
ライフルで一撃。
五十四戦目
背中側からコックピットを狙い撃ち。
五十五戦目
飽きてきたので素手で掴んで引き摺り倒した。
五十ろく「何があった!」
シュミレータから降りればどさりと物音。
シュミレータに乗ろうとしていた人がバイザーを発見したらしい。
「君、この人に何をしたんだ?」
「シュミレータで戦っただけです。」
「そうか……こいつはパイロットに向いていないのかもな……」
うわ、卒業出来てるのに向いてない扱いされてる。
「その辺に寝かしときます。使っていいですよ。」
そこら辺のソファーに寝かしておく。
「そ、そうか。ありがとう。」
時間は、一時間も経ってないな。
よし、ガレージに向かおう。
☆☆☆
「意外と遠かったな。」
扉にイエロージュエルのエンブレムが描かれた場所。
「失礼します!本日より配属されることになりました、ファングです!」
「お。来たか。」
ジャケット、というよりロングコートの丈の上着を着た20代後半ほどの男がいた。
「俺はイエロージュエル隊長のキトゥンだ。」
kitten?子猫?
「子猫?」
「ああ。入学当初は今より50センチほど低かった。」
なるほどぉ……今は195ぐらいだな。でけぇ。
「さぁ、今日の朝礼を始める。もう昼だが。」
散らばっていた全員がぞろぞろ集まってくる。
「えー、本日は伝達事項が何個かある。まず、新入りが一人!」
「ファングです!よろしくお願いします!」
「うむ。いい返事。こいつは頭の方がいまいちだがパイロットとしての腕はお前らと同レベルだ。あとでシュミレータに誘ってやれ。二つ目、軍縮による影響の話だ。」
そうそこが気になっていたんだよ。
「何人かの機体が規定をオーバーしているので改修だな。そして俺は指揮官になった。」
途端にざわざわしだす。当たり前だろ!
「指揮官!?じゃあここは?」
「解体だ。引継ぎ作業もあるので二日後だがな。」
「はっ?」
え?
「お前らの再就職先は私ができるだけ何とかしてみよう。ただファング。お前は実績がない。だからパイロットとしての就職先は用意してやれない。」
え?
「本当に申し訳ない。俺も手は尽くしたが、他の部隊も軍縮でお前用の機体は用意してやれないらしい。」
え?
「この部隊は除け者なんだ。上層部はプライドが高くて戦争で成り上がった俺たちが嫌いらしい。解体もその影響だろう。」
え?
おれむしょく?
「俺のお前に対しての最初で最後の仕事をしよう。パイロット、ファング!」
「は、はい!」
「君のイエロージュエル入隊を認め、これを与える!」
そう言って渡されたのは黄色い宝石のネックレス。
「ありがとうございます!」
イエロージュエルの証。
「あとは俺たちからの個人的なプレゼントだ。」
青いジャケット。
背中には共和国軍のマーク、右腕に大きくイエロージュエルのマーク。左胸には……大きく口を開けた、
「サーベルタイガー。」
「聞いた時は驚いたんだ。」
そう言ったキトゥン隊長を見る。左胸には、
「サーベルタイガー!?」
あいつの言ってた意味が分かった!隊長と同じようなエンブレムの新人とか調子乗ってるとしか思われないだろ!
「やらかした……」
「いや、いい。俺は全身、お前は頭だけだ。見間違うやつもいない。」
再びジャケットに目を落とせば、ポケットあたりの『Jewel 15』の文字が目立つ。
「これは?」
「お前に与えられるはずだったコールサインだ。本当ならばジャケットは軍から支給されるが、それすら用意されなかったので俺たちで用意した。」
俺本当に軍からいない子扱いされてるのね。
「本当にすまない。指揮官として権限は今よりも強くなるから、空いた席にお前をねじ込む。それまでの間、我慢していてくれ。」
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