第103話
『私にとって、しっぽはものすごく大切なものだよ。だからどれだけ好きなのって聞かれても、ちょっと困るかな。それ以上でもそれ以下でもないから、うまく答えられない』
同時に、瀬尾さんが上代さんに言っていた言葉も思い出す。そりゃ、そうだよな。瀬尾さんにとって、しっぽはご両親との数少ない思い出そのものなんだ。だから、家族とうまくいっていなかった上代さんや僕にあれだけ過剰な反応をしてみせたのも、今なら納得がいく。瀬尾さんは、もうそんな経験自体できないんだ……。
だとしたら、じゃあ、もしかして……!
「なあ、ちょっと聞いていいか?」
僕は瀬尾さんの手のひらの上にある子ブタのしっぽから、彼女の顔へと視線を移して言った。
「瀬尾さんの将来の目標って、いつの日かかわいいしっぽをゲットする事だったよな?」
「うん、そうだよ」
「それって、つまり……」
だが、そこで僕の声はぴたりと止まってしまった。強い確信こそあるのに、もしも間違いだったらどうしようっていう不安も同じくらい強かった。
万が一、僕の考えが間違っていたら、また不用意に瀬尾さんを傷付けてしまうんじゃないかって思った。それだけは絶対に避けたい。もう二度と、瀬尾さんの事を悲しませたくないって思ってるから。
僕のそんな気持ちが伝わったのかどうかは分からない。でも、瀬尾さんはこくんと頷いた後で、「やっぱりキヨ君はあの頃と何も変わってない、私のヒーローだなあ」と言ってくれた。
「……え?」
「両親が死んだ後、すぐに引っ越しが決まってね。私、おばあちゃんと一緒にキヨ君の家にお別れを言いに行ったんだ。私の夢を笑わずに『すごい、カッコいい!』って言ってくれたキヨ君とだけは、ちゃんとお別れしたくて」
「……」
「その時に私ね、お絵描きの時間に描いた自分の自画像を渡したんだよ? 『私の事、忘れないでね』って。そしたらキヨ君も自分の自画像を持ってきてくれて、『僕、絶対にヒーローになるから! だから僕の事も忘れないで!』って言いながら、思いっきり泣いてた」
「……な、泣いてないよ!」
「嘘。私、ちゃんと覚えてるもん。わんわん泣いてたよ?」
「泣いてないって!」
……いや、泣いた。今、はっきり思い出した。
僕の部屋のクローゼットの中にあった、プラスチックの箱。その中にタイタンレッドの変身ベルトと共に収められていた、拙い出来の絵。あの黒くて長いしっぽを生やした女の子は、やっぱり瀬尾さんだった。
確かにあの絵をもらった時、僕は泣いた。ヒーローになる前に彼女と別れなければならない切なさと、初恋が実らなかった悲しさでこれでもかってくらいに泣いたっけ。どうして今の今まで忘れていたんだろう……。
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