第101話
「……はるか。キヨ君がお見舞いに来てくれたわよ?」
寒天ゼリーを渡した後で、おばあさんは僕を二階まで連れていってくれた。そして、階段を昇り切ってすぐ見えるドアの前でおばあさんがそう言うと、部屋の中からやたらドスンバタンとひどい物音が聞こえてきた。
「え、嘘!? おばあちゃん、キヨ君もう来ちゃったの⁉ まだ片付けしてないし、パジャマのままなのに~!」
「どうせいつも散らかり放題だし、家の中じゃ寝間着しか着ないじゃないの」
「キヨ君の前でそんな事言わないでよ~!」
もう! と少し頬を膨らませた瀬尾さんがドアを開けておばあさんをにらむ。さすがにパジャマにまでしっぽは縫い付けてはいなかったようだが、ドアの隙間から見えた部屋のあちらこちらにある物に対して、僕はもうこれっぽっちも驚く事もなく長い息を吐いた。
「期待を裏切らない部屋で、逆に安心したよ」
瀬尾さんは一瞬きょとんとしていたが、僕が何を言いたいのかすぐに分かってくれたらしく、やっぱりおばあさん似の明るい笑みを浮かべながら「そうでしょ?」と言ってきた。
「お見舞いに寒天ゼリー持ってきたけど、おばあさんが仏壇にお供えしてた」
適当に座ってと言われて、その通り部屋の真ん中にあるローテーブルの横に腰を下ろしながらそう言うと、瀬尾さんは「ありがとう」と嬉しそうに答えた。
「お父さんもお母さんも、きっと喜んでると思うよ」
「そっか。じゃあ、奮発した甲斐があったかな」
「キヨ君、自分のお小遣いで買ってくれたの?」
「そりゃそうだよ」
「本当にありがとう、嬉しい」
もうほとんど体調が回復しているらしいパジャマ姿の瀬尾さんは、ベッドにちょこんと腰かけると、そのままゆらゆらと上半身を揺らしながら喜ぶ。そんな彼女の側にはさっきまで使っていたらしい裁縫道具やらフェルト生地やら、他には名前もよく分からない布の数々が置かれているし、部屋の壁の至る所にずらりと飾られている様々な形、長さのしっぽコレクションはもはや壮観ですらあった。
「上代さんには、もう先に写真で見せたんだけど」
そう言いながら、瀬尾さんは一番近くに置いてあったあるしっぽを手にした。上代さんに見せてもらった、あの写真のしっぽだ。
「これ、最新作のしっぽ! 自画自賛になるけど、結構いい出来だと思わない?」
「水たまりにダイブしたくせに、ろくに温まりもしないでそれ作ってたから、風邪ひどくなったんだろ?」
「うっ、それはそうだけど……」
「で? 何のしっぽだよ、それ?」
瀬尾さんの両の手のひらにちょこんと乗っている渦巻きみたいな形のピンク色のしっぽ。それをツンツンと指先でつついてやってると、瀬尾さんの「子ブタのしっぽ……」と何故か少し小さな声が返ってきた。
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