第82話
「……そうかぁ、ついにサナがやる気を取り戻してくれたか~!」
放課後。僕と瀬尾さん、そして陸上部の練習が休みだという井上君の三人で、おじさんのいるカラオケ店へと向かった。
お店はちょうど不定休日に被ってて営業こそしていなかったが、新作パフェの製作に忙しくしていたようで、僕達を出迎えてくれたおじさんは身に着けていたエプロンはもちろんだったが、その顔もクリームまみれになっていた。
もはや僕達専用とでも位置付けているのか、『⑤』の部屋に通してくれたおじさんは、今度はやたらと横幅の広いボリューミーな新作パフェを三つ持ってきてくれた。まあ、前回よりだいぶ全長が抑えられているから完食できない事はないだろうが、フルーツやクッキー生地をほぼ全て覆い尽くしてしまっている生クリームの量には辟易するばかりだった。
パフェに手を付ける前に、井上君が上代さんから渡された例のチケットを見せる。そして「よかったら一緒に応援に行きませんか」と誘うと、おじさんはまるで我が事のように喜んだ。
「かわいい姪っ子の久々の晴れ舞台だ、行かない手はないさ。誘ってくれてありがとうな。あいつ、俺には何にも言ってくれなかったから助かったよ」
チケットを一枚手に取り、微笑みながらそう言うおじさん。その様が本当に嬉しそうに見えたから、甘ったるくて少ししつこい生クリームが口の中でいっぱいになっても嫌とは思えなかった。
「久々って……もしかして、上代さんは」
パフェを何口か食べた後で、ふいに瀬尾さんがそんな事を言い出す。するとおじさんはこくんと一つ頷いた後で、「ああ」と返事をした。
「この間、はるかちゃんが見せてくれた
あ、まただ。きっと、瀬尾さんが上代さんやおじさんに見せたスマホの中の何かしらについて言ってるんだろう。僕はまたおもしろくない気分になったし、井上君はさらに何も知らないものだから、きょとんとした表情で首を傾げた。
「何ですか?」
早くもパフェの半分を胃の中に収めた井上君が不思議そうに尋ねる。それをグッジョブだと心の中で褒めていたら、さすがに教えない訳にはいかないと思ってくれたんだろう。瀬尾さんが少し慌てるようにスマホを操作しだした。
「これだよ」
少しして、瀬尾さんが僕と井上君に見えるようにスマホをかざしてきた。その液晶画面を覗き込んでみれば、何年か前に開かれた小学生対象のとある歌唱コンクールの記事が僕と井上君の視界に飛び込んだ。
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