第三章

第63話

あれから一週間が過ぎたが、上代さんが教室に戻ってくる事はなかった。


 この間に中間テストが始まったが、さすがにその三日間だけは登校してきて保健室で全てのテストを受けたらしい。でもテストが終わればさっさと帰ってしまっていたらしく、それを知った彼女のグループの女子達はまるで親の仇を見るかのような目で瀬尾さんをにらみ続けた。


「瀬尾、マジであんたのせいなんだからね!」

「このままサナが戻ってこなかったら、どう責任取るつもり?」


 中間テストが終わったその日、ついに女子達の不満が爆発した。今日も上代さんが帰ってしまったと木場先生から聞いた彼女達は、掃除の時間を告げるチャイムが鳴って木場先生が教室から出て行った途端、一斉に瀬尾さんの机の周りを取り囲んで責め始めた。


「転校生だからって、いつまでもちやほやされると思ったら大間違いなんだよ!」

「あんたが来る前から、このクラスの中心はサナだったの! そのサナをあんなに傷付けて、許されるとでも思ってんの!?」


 このクラスでの立ち位置というものが定着してしまってから、他のクラスメイトは誰も必要以上に瀬尾さんに話しかけない。せいぜい朝の挨拶程度だったし、今みたいに多勢に無勢な感じで瀬尾さんが責められていても、それを庇って止めるような奴なんていなかった。ただ一人、井上君以外は。


「おい、お前ら。それくらいにしておけよ」


 反論するどころか、椅子に座ったまま微動だにしない瀬尾さん。そんな瀬尾さんを取り囲んでいた女子達の輪を壊すように割り込んでいった井上君の手には、使い古された室内用のほうきが握り締められていた。


「お前らが友達として上代を大事に思う気持ちはすげえと思うけど、だからってやり方を間違えていい訳ねえだろ?」

「でも、井上君……!」

「泉坂」


 何か言おうとしていた女子の言葉を遮るように、井上君が何もできずにいた情けない僕の名前を呼ぶ。「え……」と僕が顔を上げると、井上君はちょいちょいと手招きをしてから、視線を瀬尾さんの方へと向けた。


「瀬尾さんと一緒に、ごみを焼却炉まで持ってってくれね?」

「え……」


 井上君の言葉で、つい反射的に教室の隅に置かれているごみ箱に顔を向ける。確かに一日分のたまったゴミでいっぱいになっていた。


「わ、分かった……」

「頼むな」


 ほら、瀬尾さんもと井上君が促すと、瀬尾さんは小さく頷いて席から立ち上がる。それに女子達がまた何かしらの文句を言おうとしていたが、井上君が壁になってくれたおかげで、瀬尾さんはわりとスムーズに僕の元へ来る事ができた。

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