第48話

「せ、瀬尾……」

「上代さん、おはよう! この間は本当にありがとう!」


 僕に言った時と全く同じ調子で、瀬尾さんが上代さんに先日の礼を言う。だが、上代さんは他のグループの子によっぽど聞かれたくなかったのか、バツが悪そうにそっぽを向いて何も応えようとしない。そんな彼女をいぶかしんだのか、グループのうちの一人が「サナ?」と声をかけた。


「そういえばあんた、この間はコバセンに面倒事押し付けられたからってあたし達先に帰したけど……もしかして、この変人転校生と一緒にいたの?」

「……変人?」


 女子のその言葉に、瀬尾さんがぴくりと肩を揺らす。そのあまりにも大きい声は校門のすぐ側にいた僕の耳にもしっかり聞こえてきて、思わず息が詰まりそうになった。


 上代さんが何か返事をするより先に、瀬尾さんが反応した事が気に食わなかったんだろう。その女子は瀬尾さんをじろりとにらみつけながら「そう、あんたの事よ」とぴしゃりと言った。


「どんな子が来るんだろうって思って、こっちはそれなりに期待してたし、いい感じの子だったら仲間に入れてあげようって思ってたの。それなのに蓋を開けてみれば、とんでもない変人だったし? もう大ハズレだったよねって、皆で話してたところ」

「ねえ、サナ。コバセンに頼まれた面倒事って、もしかしてこいつのお世話だったりした? だったら、とんでもない貧乏くじ引かされちゃったね」


 別の女子も便乗するかのように言葉を被せてくるが、上代さんはまだ何も応えようとしない。通り過ぎていくたくさんの生徒達も怪訝そうに彼女たちの様子を見やってはいるが、誰一人止めようとしないで見て見ぬふりだ。それも含めて彼女達の言動が何故かひどくおもしろくなくて、僕がそっちに向かってぐっと一歩を踏み出した、その時だった。


「変人って……もしかして、このしっぽの事言ってる? どうして?」


 心底不思議そうに口を開いたのは、瀬尾さんだった。どう聞いても嫌味を通り越した罵詈雑言の類でしかない言葉の数々だというのに、それを全く意に介していない……というより、分かっていない感じで首をかくんと傾げていた。


「そんなにおかしいかな、このキツネのしっぽ。自画自賛になるけど、再現度はそれなりに高いと思うんだけど……」


 まだどこか悪い所があるのかなぁと、瀬尾さんは肩越しにスカートの後ろを振り返って、ふわふわと毛羽立つ太いしっぽの具合をチェックしてる。それがよっぽどとぼけた様子にでも見えたのか、女子達は上代さんの周りを囲んだまま、ゲラゲラと大声で笑い出した。

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