第47話
翌週の月曜日。学生鞄と母さんが作ってくれた弁当を持って、いつも通りに登校する。そしていつも通りに校門をくぐって、廊下を渡り、教室に入って自分の席でいつも通りの一日を過ごす。そのはずだったのに、そんな僕のいつも通りをのっけから見事にぶち壊してくれたのは瀬尾さんだった。
「あ、キヨ君! おはよう~!」
いつからそこにいたのか。たくさんの生徒達が立ち止まる事なく通り抜けていく校門の片側に寄り掛かるようにして、瀬尾さんが立っていた。そして、僕を見つけるなり、ぶんぶんと空いている方の片手を振りながら駆け寄ってきたのだ。
別にこれくらいなら、どうって事のない光景なのかもしれない。幼なじみの女の子が、その相手の男子に挨拶する。実に他愛のない事だ。瀬尾さんのスカートに、昨日とは全く姿形の違うしっぽさえくっついていなければ……。
「この間は歓迎会開いてくれて、本当にありがとう。すっごく楽しかった!」
とても嬉しそうにそう言ってくる瀬尾さんの今日のしっぽは、全体的にふわふわとした毛羽立ちを見せる柔らかそうな黄土色のしっぽだった。ぱっと見た感じ、秋田犬のしっぽのように思えるが、瀬尾さんは「見て見て!」とそのしっぽを見せつけるようにくるりと僕の目の前で体を回してみせた。
「今日はね、キツネ風のしっぽにしてみたの」
「キツネ? 犬じゃなくて?」
「ぶぶー、キツネです」
「違いが全く分からないんだけど」
「太さも柔らかさも模様も、全部違いますぅ。このしっぽを作るのに、たくさんキツネの動画見たんだから」
よく見てとばかりに、瀬尾さんがそのキツネのものらしいしっぽをさらに見せてくる。確かに頭の中で朧げに覚えている犬のしっぽよりは太いし、先端の部分は黄土色じゃなくて白っぽい材質の物を使っている。これも手作りしたのかと思った瞬間、はっと我に返ってしっぽから目を離した。
「……っ、教室に入る前に外しなよ。また木場先生に怒られるぞ」
「そんなの知らない、別に誰に迷惑かけてる訳じゃないし。鞄のキーホルダーはいいのに、しっぽはダメだなんて意味分かんない」
いや、キーホルダーとわざわざスカートに縫い付けたしっぽと一緒にするなよ。
そう言ってやりたかったのに、その次の瞬間、瀬尾さんは突然ぱあっと明るい表情を見せ、僕の横から飛び出す。そして、校門へと近付いてくる一つのグループに向かって「おはよう~!」と声をかけていた。
そのグループの中心にいたのは上代さんだった、彼女は瀬尾さんに気付くと同時に、とても分かりやすく「げっ……」と顔をしかめた。
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