第43話

それから間もなく、歓迎会という名のカラオケ大会はお開きとなってしまった。


 あの後、おじさんの言葉に顔を真っ赤にしてしまった上代さんは「ウザい!」とひと言だけ残して、部屋から出て行ってしまった。ぽつんとソファに置き去りにされてしまった学生鞄を、おじさんはゆっくりと拾い上げながら「仕方ねえ奴だなあ……」と苦笑いを浮かべた後で、僕達を振り返った。


「あの通り気難しい奴だけど、どうか仲良くしてやってくれな。根はいい子だからさ」


 おじさんのその言葉に真っ先に頷いたのは、まだ出会って二日と経っていないはずの瀬尾さんだった。「もちろんです!」と力強い言葉まで添えて。


「私、上代さんとはものすごく仲良くなれる気がするんです。たぶん、キヨ君の次くらいに……ね、そうだよね?」


 まるで同意を求めてくるかのように僕を見てくる瀬尾さん。僕は何も言い返す事ができず、わずかに目を逸らす事しかできなかった。


 どうせ他に客もいないし、送っていこうか? と言ってくれるおじさんの申し出をやんわりと断ってから、僕達はビルを出た。スマホの液晶画面を見てみれば、まだ夜の六時半を少し回ったところで、遅い時間とは到底言えるものではなかった。


 かといって、他にどこか寄り道するような場所を知らない僕は、「近くにファミレスとかなかったっけ……」と考え始めた井上君に向かって「もう帰るよ」と告げた。


「何かしらけちゃったしね。歓迎会の続きがしたいなら、後は井上君に任せるけど」

「え? いやいや、さすがに二人だけだと歓迎会とは言えなくなるって……!」

「じゃあ、解散一択しかないだろ?」


 本当はまだ帰りたくない。ネカフェとやらに行ってみようかとも思ったが、さすがに学生と一発で分かるようなこんな格好じゃ、遅くまで居させてくれないだろう。


 もうどこかコンビニで弁当でも買って、そのまま家に帰ろう。着いたらすぐに部屋に入って、朝まで立てこもりコースだ。風呂は……それこそ朝でいいか。


 それじゃあ、と二人に背を向けて、僕はアーケード街の出口に向かって歩を進めようとする。その時、背中の向こうから瀬尾さんの声が聞こえてきた。


「キヨ君、また学校でね!」


 それと同じタイミングで、チリンと鳴る鈴の音。それがいやに心地悪く感じて、僕は返事もせずにそのまま歩き出す。すっかりくたびれてしまったスニーカーが、気のせいかひどく重たくて仕方なかった。

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