第37話

結局、瀬尾さんの歓迎会の為に集まったのは本人以外では僕と井上君、そして上代さんの三人だけだった。「何度も参加してくれって、皆に言ったんだけどな……」と困ったふうに頬を掻きながら井上君は言ってたけど、瀬尾さんはさっきと同じように全然気にしてないとばかりに首を横に振った。


「急に歓迎会しようって言われたって、皆だってそれぞれ都合ってものがあるよ。それに三人も集まってくれたんだし、私は充分嬉しい。あなたも来てくれてありがとう、えっと……」


 校門をくぐり抜けたところで、瀬尾さんが僕達とは少し離れて歩いている上代さんを振り返る。上代さんは瀬尾さんと目が合うと、ふんっと一つ鼻息を漏らした後で「……上代サナ」と自己紹介した。


「あんたとは出席番号が一番違いなの。そのせいで、あんたの面倒見ろってコバセンに言われただけだし」


 おかげで恵達と遊びに行けなくなったじゃん、と不満たらたらで余計な事を言ってくる上代さんに、ああなるほどと思った。大方、職員室の立ち入りを咎められ、その罰を受ける感じでこの場にいるんだろう。僕と同じで、善意でこの歓迎会に参加した訳じゃないんだ……。


 だが、そういう人間相手に嫌悪感を持つという事を全く知らないのか、瀬尾さんは「そうなんだ」と笑ってみせた。


「それはありがたいかな、キヨ君だけに頼りすぎるのもどうかと思ってたし。あの、上代さん」

「何?」

「よかったら、仲良くしてね」


 面倒臭そうに返事をする上代さんに近付くと、瀬尾さんはさっと両手を差し出す。そして上代さんの許可を取る事もなく、同じその両手をぎゅっと握り締めた。


 昨日今日会ったばかりの人間にそんな事された経験なんて、もちろんなかったに違いない。上代さんの口から「は、はぁ~?」とすっとんきょうな声が出る。それを聞いて井上君はぷぷっと小さく笑ってるし、僕はどうしていいかも分からず、成り行きを見ているしかなかった。


「ちょっ……気安く触んないでよ、瀬尾! そんなに強く握ったらネイル剝げちゃうじゃん!」


 慌てて瀬尾さんの手を振りほどき、自分の爪先をくまなくチェックする上代さん。一昨日、やっぱり清水の舞台から飛び降りる決意を固めたんだろう。上代さんの両手の指先は夕日に照らされたピンクラメが瞬きをするようにちかちかと光っていた。


 危なかったぁ~とぼやく上代さんを、瀬尾さんが不思議そうに見つめている。そしてそんな二人に向かって、井上君が僕の肩を掴みながら言った。


「二人とも、そろそろ移動しようぜ。上代、お前が会場をセッティングするって言ってたよな?」

「……まあね」


 上代さんがこっちをちらりと見つめながら答えた。

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