第22話
なるほど。瀬尾さんの言う通り、確かに『それ』はしっぽだった。
おそらくフェルト生地を主材料に使われているのだろう。数十センチほどの長さとみられる『それ』は瀬尾さんのスカートの留め金の部分にしっかりと縫い付けられていて、裾のあたりまで垂れるように伸びていた。もちろん本物である訳がないから自分の意志で振るなどの動きこそできないが、瀬尾さんが身じろぐ度に『それ』の先端に飾られている鈴も揺れて、あの微かな音を立てていたってところだろう。
何だ。要するに、身に着けるタイプのマスコット的アクセサリーか。そう考えれば、別に珍しい事でもない。ハロウィンの時期にもなれば、テレビのどのチャンネルを回しても様々な仮装に扮して大騒ぎする人達をいくらでも見るし、その中には空想の動物と思しき仮装に興じる人もいて、獣の形をした耳やしっぽもちゃんと着けていた。
瀬尾さんがどういった嗜好を持っているのか知らないし、これからも興味なんか持つ事もないだろうが、転校初日のウケ狙いや掴みとやらを得たかったのなら、少々空回りをしてしまったんじゃないだろうか。少なくとも、木場先生には受け入れられなかったようだし。
納得がいかないとばかりにむくれた顔をし続ける瀬尾さんに、木場先生はさらに言った。
「ダメです。今日は転校初日だから見逃すけど、制服の改造は禁止だってさっき渡した生徒手帳にもちゃんと記載されてるんだから」
「改造なんかしてません、スカートに縫い付けてるだけです。明日使う体育のジャージにだって、同じしっぽを付けてくるつもりですし」
「それもダメに決まってるでしょ」
「何故ですか? 別にスカートの裾を必要以上に短くしている訳じゃないし、ジャージを切り刻んでくる訳でもないのに」
私はただ、しっぽが欲しいだけです!
きっぱりと、そして頑としてそう言い切る瀬尾さんに、木場先生は軽いめまいを覚えたのか額に右手を添える。瀬尾さんと木場先生のそんな攻防を僕達は少しの間黙って見守っていたのだが、やがて……。
「……ぷぷっ。くっくっく……!」
「ダメだ、がまんできねえ……!」
「ヤダ、何あの子……ふっふふふ……!」
「ははっ、あっはははは~!」
誰から始まったのかは分からない。でも、気が付くと、クラス中のほとんどの人間が瀬尾さんに向かって大きな笑い声を立てていた。
ひどい奴など、わざわざ教壇の上の瀬尾さんを……いや、彼女のしっぽを指差しながら大きな口を開けてバカにするかのように笑っていた。上代さんに至っては瀬尾さんのしっぽを撮ろうとでもしているのか、今度はスマホを取り出して撮影しようとしている。笑っていないのは僕と井上君、そして瀬尾さんと木場先生だけだった。
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