第21話
そんなクラスメイト達の様子を僕は教室の一番後ろから、そして転校生の女子――瀬尾さんは教室の一番前の位置にある教壇の上から観察するように見つめていたが、そこでまた、あの鈴の音が聞こえてきた。
チリン……、チリン……。
やっぱり、この教室のどこかで鳴っている。誰か鈴付きのキーホルダーでも持ってきているのかと思っていたら、その次には木場先生のわざとらしい咳払いの音が聞こえてきた。
「……え~、瀬尾さん? 先生、さっき職員室でも注意したと思うんだけど」
「私には、夢があります」
「瀬尾さん!?」
木場先生が何かしら言おうとしていたが、その声が聞こえていないのか、それとも完全に無視しているのか。とにかく瀬尾さんは浮かべた笑みを崩さないまま、そしてひどくマイペースに自己紹介を続けた。これまでの人生で僕が……いや、きっとこのクラスにいる誰もが一度も聞いた事がないような突拍子もない自己紹介を。
「私の将来の目標は、いつの日かかわいいしっぽをゲットする事です!」
……は? 何だ、それ?
僕も、そしてクラスにいる誰もがほぼ同時にそう思った事だろう。そして、それと全く同じタイミングで、僕は先ほどから聞こえてくる鈴がどこにあるのか知ってしまった。
チリン、チリン……チリン……。
よく聞いてみれば、その鈴の音は瀬尾さんが教壇の上でわずかに身じろぎする度に鳴っていた。
それに気付いた僕の視線がついそちらの方に向いてしまえば、うちの学校の制服をきちんと規定通りに着ている瀬尾さんのスカートの裾から、黒くて細長い物がだらんと垂れているのが見えた。少し毛羽立った感じにも見えるその垂れた黒くて細長い物の先端部分にはピンク色のひもが小さくリボン状に括り付けられていて、そこにチリンチリンと鳴るあの鈴が飾られていた。
何だ、あれ? 何であんな物があるんだ……?
僕がそんなふうに思っていると、また木場先生の咳払いの音が聞こえてきた。
「瀬尾さん、職員室でも言ったでしょ? 教室に入るまでに、『それ』外しておきなさいって」
「……先生、『それ』だなんて言わないで下さい。これは、私の大事なしっぽです!」
木場先生の言葉をおもしろく思わなかったのだろう。瀬尾さんは少しムッとした表情をしながら木場先生の方へと振り返った。その際、教壇の上で体の向きを変えた事で、それまであまり見えていなかった彼女の腰元のあたりが見え、その黒くて細長い物の全体像が僕達の目の前にはっきりと現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます