第11話
だが、そんな僕の心情なんか知った事じゃない四人の女子グループは一斉に殺気めいた視線をこっちに向け、しかも全員がほぼ同じタイミングで「はあ!?」とイラついた声をあげた。
「……何? あんた、いきなり?」
「女の子だけの会話に気安く入ってこないでくんない!?」
「え? つーか、こいつ誰? うちのクラスにこんなのいたっけ?」
そのうちの一人が僕の事を指差して、バカにするような笑みを浮かべる。一学期も半分近く過ぎているっていうのに、二十八人しかいないクラスメイトのうちの一人の顔をまだ覚えていないくらいなんだ。友達がこんな簡単なことわざすら間違って使っていようが、そりゃあ気にならない訳だ。
……安心しなよ、僕もそっちの名前なんか覚えていない。興味すらない。唯一知っているその彼女の名前だって、単に小学校の時から何故かずっと同じクラスだっていう理由だけだ。
僕はその女子グループの真ん中で、一番ギラギラとした目つきでこっちをにらみつけてくる彼女――
「上代さん」
「……何!?」
「これ、全部
すうっと宙を動かす僕の手を、上代さんや他の女子達の視線が追う。そして、そんな僕の指が彼女達の荷物でいっぱいにされている僕の机の上を指すと、また「はあ!?」という怒声が飛んできた。
「何でそんな事しなくちゃいけない訳!?」
「あたし達、今楽しくおしゃべりしてるんですけど!」
「あんたがどっかに行けばいいじゃん!! マジでウザッ!!」
上代さん以外の女子達がぎゃんぎゃんと噛みついてくるが、何でって言われても、ここは僕の席だ。昼休みの残り時間、僕なりの安らぎの時間を過ごす為にはどうしても必要不可欠な場所であり、そこを無遠慮に占拠しているのはそっちじゃないか。理不尽にも程がある。
思わず、はあっと短い息を吐いてしまったのが余計に癪に障ったのか。女子達の喚き声はさらにヒートアップして、何が何やら聞き取りづらくなってきた。そんな中、ついに我慢できなくなったのか、上代さんも何か言おうとしたのかうっすらと口を開きかけた時だった。
「やめろよ、上代。今回ばかりは、さすがに泉坂の言う通りだ」
さすがにこの騒ぎを放っておくことなどできないと、生来の性格ゆえに体が動いてしまったんだろう。その言葉と共に、僕達の目の前まで歩み寄ってきたのは井上君だった。
上代さん達は当然として、僕よりもずっと身長の高い井上君がすぐ側までやってきた事で、僕達の体の輪郭にうっすらと影が走る。そのせいで、きっと本人にはそんなつもりは欠片もないだろうに、ものすごい圧のようなものが自動的に出来上がってしまい、僕達は何も言えなくなってきゅうっと口元を引き結ぶしかなかった。
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