第108話

「ず、ずいぶんタイトなシフトだね……」


 優也が思ったままの言葉を口に出すと、正臣はうんうんと頷きながら「そうだろう?」と答えた。


「俺もここに来るまでは、完全にコンビニってものを舐めてた。だがな優也。にわかの俺が言うのもなんだが、実際にコンビニで働いてみれば、ヤクザの所業シノギなんぞより何万倍も大変なもんだったんだよ」

「へ、へえ。例えば?」

「そうだな……。分かりやすいところで言えば、俺が入っている夜勤帯での搬入作業シノギよ。俺達ヤクザが取引で一度に仕入れて運ぶのは、どんなに頑張ったってヤクチャカがせいぜい100キロ程度だろ? おまけに警察サツどもにバレないよう、かなりの時間や人出をかけなきゃならねえ。その点、コンビニってもんは桁違いだ。日によって多少の違いこそあるが、それでも毎回一万点以上の商品ブツが運び込まれてくるんだぜ」

「え……?」

「そんなクソ多い量の商品ブツを、俺や新本のアニキは二時間もかけずに店に陳列しなきゃならねえ。これがヤクチャカだったらと思うと、毎度恐れ入るといったもんだ。レジに突っ立って、適当に『いらっしゃいませ』とか言ってるお気楽そうな奴らじゃなかったって思い知らされるからな……」


 神妙な面持ちでそんな話をする正臣を見て、優也は自分も少なからず似たような事を思っていたものだと反省の念を浮かべた。


 いや、少なくとも常日頃からメンツや義理を重んじ、時には命を懸けて壮絶な戦いに身を投じる事すら厭わない渡世の中で生きる自分達に比べればと安心しきっていたのだ。だからこそ、こっちの世界でしばらく潜っていれば、兄さんが萩野組からの報復を受ける可能性がぐっと落ちる。ずっと渡世の中で生きてきた兄さんには呼吸すらもしづらいかもしれないが、それでも彼や相良組の今後の為にと思っての計画だった。


 だが、違った。正臣の言う通り、日の下を真っ当に歩けるのかと問われれば、決してしっかりと頷く事などできない所業を繰り返す自分達よりも、24時間休みなく稼働し続け、いついかなる時でも世間様のお役に立っているコンビニの方が大変なのは、火を見るよりも明らかではないか。しかも、自分達よりもさらに少ない時間と人数をかけてこなさなければならないのだから。


「大丈夫なの? そんなたくさんの仕事を、こんな少ない人数で……」


 目の前にいる兄貴分やかわいい妹の事が一気に心配になった優也は、その視線をシフト表から正臣へそろそろと移す。すると正臣は呆れたように一つ息を吐いてから「大丈夫な訳ねえだろ」と答える。

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