第48話
『……兄さん、そんなの僕が許すと思ってるの?』
一時間後。部屋に戻った正臣が自分の耳元に充てていたスマホから、優也の呆れ返ったような声が聞こえてきた。
『ダメだよ、絶対ダメ。今の自分の立場、まだ分かってないの? 兄さんは今、絶賛指名手配中なんだよ。今日だってうちの新しい事務所に元気はつらつな刑事さんが来て、追い返すのにどれほど苦労したと思ってんだか……』
「そこを何とか、曲げて頼むと言ってんじゃねえか」
『いいや、そればっかりは聞けないね! その件は僕が何とかするから、兄さんはおとなしく待っててよ』
「てめえ、優也……それでも任侠に生きる漢か、お前は! 相良組の中からとんでもねえ膿が出てきたんだぞ!!」
そう怒鳴るように言って、正臣はあぐらをかいていた足元の床を空いている方の手で荒々しく殴りつけた。
正臣がここまで怒るのも無理はなかった。とても言いにくそうにしていた小百合の口から、何とか借金元の会社の名前を聞き出してみれば、何と相良組の傘下に当たる
『黒釜ファイナンスの悪い噂は、父さんも僕も耳にはしていたよ』
正臣の興奮を少しでも治めようとしているのか、優也は至極冷静に話を進めた。
『だから、今回の計画に黒釜ファイナンスは入れてない。これを機に縁を切るつもりだったんだ。僕達相良組の後ろ盾がなければ、しょせんは烏合の衆。寄せ集めのチンピラ同然なんだから』
「確かに奴らはチンケな連中だろうよ。だが、一度金貸しのマニュアルを頭に入れちまったら、ああいう連中ほどタチが悪いのは分かってんだろ。柏木さんの旦那を使って、これからどんな嫌がらせをしてくるか……」
『そんな真似はさせないよう、僕も最優先で動くよ。兄さんが出るまでもないって』
「こぶしでなく、頭で潰すってか? もやしらしいやり方だな、おい?」
『今はそういう時代になりつつあるって、いい加減理解してよ。兄さんのやり方を否定するつもりはないけど、そればっかりじゃダメなんだって』
「いいのか、そんな悠長な事言っててよ?」
ふうっと大きく息を吐き出して、正臣が言う。その両目は、先ほど小百合に見せた時と同じ光を宿したままだった。
「これ以上、柏木さんの旦那や黒釜の連中がこっちの店にちょっかい出してみろ? 下手したら警察を呼ばれる羽目になって……そうなりゃ、俺も見つかって終わりだぞ」
『うっ! そ、それは……』
優也が息を詰める気配が、スマホ越しに伝わる。よし、と正臣はこぶしを握った。やっぱり優也は俺の押しに弱え。
「事は急を要するんだよ」
正臣は圧を効かせた声で、優也に言った。
「黒釜の連中に、そして柏木さんの旦那に筋ってものを通させる為だ。とっとと、奴らの
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