第47話
「どんだけ殴られてきたんですか……」
正臣が尋ねると、小百合は小さく首を横に振りながら「あの人の心の痛みに比べればと、始めの頃は思っていました」と前置きしてから、話を続けた。
「夫にとっては気の置けない大事な友人だったようですけど、そんな人から裏切られて、会社でもいい笑い者にされ続けて……。数ヵ月と経たないうちにその会社も辞めてしまってからは、どんどん生活が荒れていきました。まともに再就職も探さないまま、借金取りから追われていくうちに、とうとうその人達の下っ端みたいな事をやるようになっていって……」
そうして二人の自宅が、やがては借金取り達のたまり場のようになっていき、小百合は章一から彼らをよくもてなすようにと言い渡された。強面で柄の悪い連中が自分の家に出入りするなんて恐怖以外の何物でもなかったが、自分がうまく彼らをもてなす事ができれば、もしかしたら夫の謂れなき借金がどうにかなるかもしれない。そんな霞のような希望にすがって、章一の言う通りにしてきたのだが、すぐに我慢の限界が訪れた。
「その人達、夫よりもひどい事を私に強要しようとしてきて……、無我夢中で着の身着のまま逃げてきたんです。それで当てもなく歩いていたところに、店長さんと出会ったんです。本当によくしてくれて、弁護士さんまで紹介してくれて、今は離婚を前提にいろいろと事を進めているんですけど……」
全身を細かく震えさせながらも、それでも懸命に声を絞り出す小百合。正臣のそう長くない怒りの導火線はあっという間に焼き切れた。
はっきりと言わずに言葉を濁すくらいだ。相当いかがわしい真似をさせようとしたんだろう。こんなか弱く細いなりをした女相手に、その借金取りの奴らはもちろんだが、あの章一とか言う旦那もどんだけ人でなしだ!
「柏木さん」
怖がらせまいとは思うが、それでも長年の極道の性はそうそう抑えきれないもので、正臣はかなり低い声で言った。
「あんたの旦那が負わされたっていう借金、管理している会社の名前は分かりますかい?」
「え? そ、それは分かりますけど、でもどうして……」
「不肖ながら、この永岡に任せてくれやせんか? 三日と経たずに全てチャラにしてみせますので……」
そう言い切った正臣の両目は、ぎらぎらと鋭い光を放っていた。
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