第29話
「永岡さんは、『千人殺しのマサ』って呼ばれるくらい伝説になってる人なんでしょう? そんなすごい人が、まさか何の変哲もないコンビニで働いてるだなんて、お天道様でも見抜けないんじゃないかしら?」
「お、おぉ……た、確かに」
「それに万が一、萩野組の人達が雫ちゃんを狙ってきたとしても、永岡さんがいれば安心でしょ? おまけに永岡さんは、相良組の次世代の為のノウハウもうちのお店で培う事ができるし、こっちも人手不足が解消されて助かるのよ。まさに一石二鳥……いや、一石三鳥だわ~♪」
まるで新しいおもちゃをもらえた小さな子供のように、キャッキャと嬉しそうにはしゃぐ乙女。そんな彼女を見て、正臣はもう何も言えなくなった。
全部この人の言う通りだとしたら、さすが優也だぜ。相良組やおやっさんの事はもちろんだが、お嬢にも危害が及ぶかもしれないってところまで計算に入れて、俺をここによこしたんだろう。やっぱり俺とは頭の出来が段違いだし、これからの事を考えても相良組の跡取りは優也でないとダメだ。
そして、その相良組が新たに再出発する為にも……。
正臣は居住まいをしっかり正すと、「木下……いや、店長さん!」と深々と頭を下げながら乙女に告げた。
「あいにくとこの永岡正臣、極道の世界以外何も知らねえ半端者でございます。多大なご迷惑をたびたびおかけする事になるかもしれません。しかし、相良組の未来の為、そしてここにおられますお嬢の身の安全の為、どうか俺に店長さんの店のケツモチやらせていただけねえでしょうか! 改めてお願い致しやす!!」
ついには土下座に近い格好で頼み込む正臣に、隣の雫はぎょっとして、思わず「ちょっと、やめてよ」と腕を伸ばしてその身を揺らす。だが、しっかりとした体幹を持つ正臣の体は、次に乙女が口を開くまでぴくりとも動く事はなかった。
「もちろんよ、永岡さん。安心して、うちにいてちょうだい。決して悪いようにはしないから」
「店長さん……すみません、お世話になります!」
「雫ちゃんも、極道は嫌いでも永岡さんの事は嫌いじゃないでしょ? 優也君と三人で、仲のいい兄妹分だって聞いてるわ?」
「そ、それは……そうかもですけど」
「これからはそれプラス、コンビニでの先輩としても仲良しであり続けてね?」
そう言うと、乙女はゆっくりと両手を伸ばして、正臣の左手と雫の右手を取る。そして、そのまま三人の手をそっと重ね合わせた。
「この事は、私達三人だけの秘密。他の誰にも内緒にするって約束しましょうね?」
「もちろんです、店長さん! 何なら今ここで、固めの
「ごめんなさいね、永岡さん。私、下戸なのよ。雫ちゃんに至っては未成年だし、オレンジジュースか抹茶オレは代わりになるかしら?」
これ以上ないほど真面目にそう言う乙女に、正臣と雫は苦笑いを浮かべながら、それぞれ答えた。
「すみません、店長さん。だったら俺は、麦茶でお願いします……」
「私は、オレンジジュースで……」
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