第28話
「雫ちゃんのお兄さん、とても心配してたわよ? 妹が極道と関わりのない生活を送りたいと思ってる事自体は反対しないし、むしろ応援してあげたいとも言ってたわ。でも、今回の件もあったから、より心配になっちゃったんじゃない?」
そう言ってから、乙女はちらりと正臣を見やる。その何か言いたげな視線を受けて、正臣は己のさほど賢くない頭でもぴんと感じ取ってしまった。まさか……。
「木下さん。優也の奴、萩野組の名前を出してやしませんでしたかい?」
正臣は尋ねた。
「もしそうだったら、合点がいきます。血気盛んな連中ばかりが集ってる萩野組の事だ。俺への報復で今頃は頭がいっぱいだろうし、その為だったらそれこそ手段は選ばねえでしょう。もしかしたら、お嬢を狙ってこねえとも限らねえ……」
「え? 何よそれ!?」
正臣の言葉に、雫が過剰なまでに反応する。その顔は心底嫌そうに歪んでいた。
「ちょっと、冗談じゃないわよ!? 何の為にわざわざママの旧姓を使ってると思ってんのよ! クソ親父の巻き添えで狙われるだなんてまっぴらごめんなんだけど!」
「待って下さい、お嬢! 今回の件は全部俺がやらかした事。おやっさんはこれっぽっちも関係ねえ……」
「そのおやっさんとやらの為にマサがしでかしたっていうんなら、結局は同じ事よ! ああヤダヤダ、これだから極道って連中は!」
ふんっと再びそっぽを向いてむくれてしまう雫に、正臣はこれ以上つむぐ言葉が見つからずに、ぐうっとうなだれる。自分の不始末の為に相良組は一時解散となり、お嬢にも面倒が降りかかる事態が起きるかもしれねえ……。やっぱりこれ以上いろんな人に迷惑をかける訳には、と正臣は思ったのだが。
「落ち着いて雫ちゃん。だからこそ、お兄さんはうちに永岡さんを預けたんだと思うから」
とても穏やかな乙女の声が、正臣と雫の耳元をくすぐった。
「コウちゃんからもしっかり話は聞かせてもらったけど、確かに今は永岡さんにとって大変な状況だと思うわ。その、萩野組って所からはもちろん、警察からも追われてる身でしょうから」
「その通りです、木下さん。だから、いくらおやっさんから頼まれたとはいえ、堅気さんのあんたに必要以上の迷惑は」
「あら、そう? むしろこれ以上ない、格好の隠れ蓑だとは思わないの?」
小首をかしげながら、ひどく不思議そうに言ってくる乙女。彼女のそんな様子が腑に落ちなくて、正臣も雫も同じようにこてんと小首を傾げた。
「絶好の隠れ蓑って……?」
「だってそうじゃない、雫ちゃん」
雫の問いかけに、乙女がにこっと優しい笑みを浮かべながら答えた。
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