第25話
「大変失礼致しやした! ご無沙汰しています、お嬢!!」
「ちょっ……やめてよ、マサ! こんな所で!」
正臣にお嬢と呼ばれたその者は、制服といった分かりやすい服装こそしていなかったものの、高校生かと思しき年頃の女の子だった。ずいぶん急いで走ってきたのか、いまだに息切れは治まっていないものの、正臣の顔を見て驚きを隠せない表情をしている。そして、数年ぶりに会ってもちっとも自分に対する態度が変わっていない正臣に心底慌て、彼の口を小さな両手で急いで塞いだ。
「ひゃにふんですか、ほひょう!(何すんですか、お嬢!)ふうへんふひほ、はひふぇんはっへほい!(数年ぶりの、再会だってのに!)」
「いいから、しゃべんないで! おとなしくしなさいよ!」
正臣がもごもごと言うように、本当に数年ぶりの再会なのだ。それなのにいきなりこの仕打ちはどうしてなのだと正臣は少しバタバタと両足を踏み鳴らすが、女の子の方も意地でも離してやるものかとさらに両手の力を込める。本来なら乙女にもしてやった通り、正臣の力と経験があれば女の子の両手も実に簡単に振りほどけるのだが、正臣は決してそうしなかった。
そんな二人の様子を小百合も、そして騒ぎを聞きつけて慌てて掃除用具室から出てきた天野もぽかんと見つめていたものの、やがて天野が「し、
「そ、そのニートの、子供部屋おじさんと……もしかして知り合いなの?」
「え? い、いや、それは……」
天野の質問にはっと我に返った女の子は、思わず正臣から両手を離す。緩い拘束から自由になってふうっとひと息をついた正臣だったが、その次の瞬間には天野にぎろりと殺意のこもった視線を向けていた。
「おいこら、にーちゃん……。てめえ、誰に向かって気安く声をかけてやがる……?」
「え? えっ……!?」
「『雫ちゃん』だぁ? この方はなぁ、てめえが馴れ馴れしく口をきけるような安っぽい女じゃねえんだよ! 何を隠そう、あの相良ぐ……」
「……やめなさいよ、マサァ!!」
ずいっと何歩か天野の方へと詰め寄り、さらなる怒気を込めて話を進めようとした正臣だったが、最後まで言い切る事はできなかった。彼の背後についた女の子の見事な回し蹴りが見事にクリティカルヒットし、その体を狭いバックヤードの壁の方まで吹っ飛ばしたからだ。
ぐはあっ! と短い悲鳴を出して壁に背中を打ち付けた正臣の身に、さらなる追撃がかかる。ちょうどそこに積み重ねられていた大量のスナック菓子のダンボール箱がその衝撃でバランスを崩し、正臣に覆い被さるように落ちていったのだ。
全く想定していなかった連続の衝撃に、もう正臣の口からぐうの音も出ない。みっともなくダンボール箱の下敷きになっている様にさすがに同情したのか、小百合と天野の口から同時に「だ、大丈夫ですか……?」と心配の声がかかる。
そんな中、乙女はニコニコと楽しそうに笑いながら、いまだ不機嫌そうに頬を膨らませている女の子に向かってこう言った。
「さすが雫ちゃん。通信空手の練習は順調みたいね♪」
「店長、これってどういう事なんですか? 何でマサがここに……」
心底意味が分からないとばかりに、女の子はダンボール箱に埋もれたままの正臣を指差しながら尋ねた。
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