第18話

「……うん! やっぱり永岡さんには2Lサイズが合ってたわね。着痩せしてる方だけど、本当はかなりの筋肉質なのかもって思ってたから」

「……」

「あらやだ! ユニフォーム似合ってるじゃない。どこからどう見ても、ちゃんとしたコンビニ店員さんだわ♪」


 あれから半ば強引に正臣を店舗内の狭いバックヤードへと連れていった乙女は、まずは正臣を無理矢理椅子に座らせ、その次は有無を言わさず新品のユニフォームを押し付けるように着させた。胸元までしっかりと刻まれた入れ墨を覆い隠せるほど、きっちりと第一ボタンまで締められた正臣は顔をしかめるも、乙女は全く意に介さず、むしろうっとりとした表情でユニフォーム姿の彼を見つめている。近頃はシングルスーツばかり着ていたので、乙女のそんな視線に当の本人は心底居心地が悪かった。


「……質問していいですかい?」


 初めて着るユニフォームの窮屈さにいよいよ我慢がきかなくなって、正臣はついに切り出した。


「これは本当におやっさんと優也の考えなんですかい?」

「ええ、そうよ」


 実に明るく、そしてあっさりと乙女は答えた。


「優也君も言ってたでしょ? 今は警察の目を欺く為に相良組を解体したふうに見せかけて、いろんな職種の企業を立ち上げるんだって。ここで働くのだって、その一環だと思ってくれればいいわ」

「だ・か・ら! 組の迷惑にならないように潜らなきゃいけねえ立場の俺が、何だってコンビニの従業員なんぞを」

「コウちゃんから聞いたけど、あなた中学校もろくに行かずに、ずっとコウちゃんや元奥様のお手伝いばかりしていたんですってね。こう言っちゃうと失礼な言い方になると思うけど、世間一般的に言う『ちゃんとしたお仕事』ってやった事ないんじゃない?」


 グサアッ!


 乙女の厳しい言葉のドスが、正臣の心臓近くに思いきり突き刺さった。思わず何か言い返そうとしたものの、一点の間違いもない事実なので正臣の口から何か反論の言葉が出てくるはずもない。つい、ふてくされたようにぷいっと顔を背けるが、乙女の口撃こうげきはさらに続いた。


「お若い頃はコウちゃんのおつかいでいろいろ買い物をした事もあったでしょうけど、それもこの頃ではないんでしょう? 永岡さんが外出する時って、コウちゃんの警護以外だと、後は大抵取り引きか抗争の時くらいだって優也君も言ってたし……」


 グサ、グサグサアッ!!


「優也君、本当に心配してたのよ? 『極道としての兄さんは本当に頼もしい限りだけど、一人の人間という点で見れば、極道の事以外は何にも興味がない、世間知らずの引きこもりにしか映らないんだ。僕に遠慮してこれからも若頭でいてくれるっていう分にはありがたいと思ってるけど、それとこれとは別問題。兄さんは明らかに視野が狭すぎるんだ』って言っててね……」


 グサグサグサグサ、グサアッ!!!


 まるで何人もの鉄砲玉から一斉にドスを突き立てられたような気分だぜ。さすが俺の弟分だな、優也。俺の精神的弱点をここぞとばかりに付いてくるなんてよ……。


 そんな事を思いながら、正臣はがくりと椅子から崩れ落ちて両膝をついた。

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