第17話
それから五分後。
正臣は、自分が今いる場所の風景が全く信じられず、呆然と入り口の自動ドアの所で立ち尽くしてしまっていた。そのせいで、先ほどから「ピンポンパンポン、ピンポン♪ ピンポンパンポン、ピンポン♪」とセンサーで反応する入店音が全く鳴り止まない。同時に、横をすり抜けて出入りしていく何人の客かが迷惑顔を浮かべながら、正臣をじろじろと見ていた。
「いらっしゃいませ、こんにちは~!」
「ただいま当店オリジナルチキンが出来上がりました、おひとついかがでしょうか~?」
「いかがでしょうか~?」
そして、そんな正臣の視線の先には特有のユニフォームを着た男女が二名、カウンターの中に入って接客業務に勤しんでいる。女性の方がレジを打ち、男性が揚げたてジューシーなチキンをショーケースに並べて声かけをしている中、同じくユニフォームを着た乙女がにこにこと笑いながら自分の元へと戻ってきた時は、思わず「はあ?」と変な声を出してしまった。
「どうしたの、永岡さん?」
明らかに動揺している正臣の姿を見て、こてんと小首をかしげる乙女。この様子からして、心底不思議で仕方ないと言わんばかりだと察した正臣は「これはどういう事ですかい?」と低い声を出した後、さらに周りを見渡した。
まず、入り口である自動ドアのすぐ横は本棚コーナーとなっていて、様々なジャンルや趣旨の雑誌類がきれいに並べられている。そのまままっすぐ突き進んでいくと、壁伝いにいくつかの冷蔵オープンケースが備え付けられており、右端からおにぎり・お弁当・サンドイッチ類・うどんやそば、パスタなどの麺類が充分な量で陳列されていた。
さらに続けて冷蔵のレトルト食品や惣菜類が並び、左端になると大小様々なサイズの紙パック飲料が勢ぞろいしている。その隣には冷凍食品がひと通りそろっている大きな縦型ショーケースがあり、その前を右に折れればペットボトル飲料や酒類がぎっちり詰まった大型ウォークイン冷蔵庫が見えた。
そして、忙しく動き回っているユニフォーム姿の二人組がいるカウンターの前に等間隔で並んでいるのは、お菓子や日用品、ジャンクなカップ麺などがこれでもかとばかりにひしめき合っている棚の数々……。さほど賢くはないと自負している正臣も、ここがどこなのかはすぐに分かった。ここという訳ではなかったが、だてに若い頃から、何度も何度も孝蔵のタバコを買いに出向いた事はあったからだ。
だが、それでも信じがたくて、正臣は乙女に尋ねた。
「俺の目に狂いがなけりゃ、ここは……コンビニなんじゃないんですかい?」
「ええ、そうよ」
震える声で尋ねた正臣に対して、乙女は実にあっさりと言ってのけた。むしろ、「え? 聞いてなかったの?」と言わんばかりだった。
「ここは、私がオーナーを務めているコンビニ『ハッピーマート
たっぷり十秒かけた後、正臣の口から「は、はぁ~~~~~~~~!?」という叫び声が飛び出た。
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