第3話
「おい、兄ちゃん。ちょっと
……え? 兄ちゃん? 俺、お客さんなのに、急に兄ちゃん? いやいや、普通ありえないでしょそんな言葉遣い。俺だって店のお客さんに砕けすぎた話し方したら、オーナーに怒られるのに。青年は心の中でそうまくし立てたが、それが言葉になって口の外から出てくる事はなかった。代わりに、またそうっと従業員を見上げてみれば。
「この粉、どこで手に入れた?」
ずいぶんといぶかしむように、青年の顔を覗き込んでくる従業員とばっちり目があった。というより、近い。近い近い、近すぎる。青年は顔を背けたいのを必死に堪えながら、ようやく答えた。
「ど、どこって……ここからそんなに離れていない路地の向こうの」
「ああ!? この近くって……どんだけ無防備な所で取り引きしてんだ、お前は!? 素人じゃあるまいし、もうちょっと考えんかい!」
大型業務専門店でと言葉を続けたかった青年をビシッと指差しながら、いきなり説教をしてくる従業員。青年は驚いたが、ぐっと両足を踏ん張ってさらに耐えた。
そ、そりゃあ、まだまだ見習いも同然かもしれないけど、俺だって調理師免許を取って、甘くも厳しいスイーツの世界に飛び込んだんだ。趣味や退屈しのぎでやってる素人なんかじゃない!
「わ、分かってますよ……!」
震えそうになる声を必死に絞り出しながら、青年は答えた。
「俺だって素人じゃないんだ。吟味に吟味を重ねて、最高の物を買い付けたに決まってるでしょう」
「……ほう? その言い分だと兄ちゃん、若い割にはずいぶんとその道にどっぷり入り込んでるようだな?」
「と、当然です。周りから変だのおかしいだのと言われてたけど、ずっとこの道で生きていくって決めてたから」
「いい心掛けだぜ、兄ちゃん。若いのに
青年の答えに満足したのか、従業員は今度はにやりとニヒルな笑みを浮かべると、青年からボールペンを受け取る。そしてそのまま、伝票の受付欄にコンビニの店名と、続けて受付者欄に自分の名字を書き出した。何故か「ながおか」とひらがなで。
青年は、従業員の右胸あたりにかかっている名札プレートをちらりと見た。そこには従業員の名字が書かれてあり、そこには漢字で『永岡』とある。同じように書けばいいのにと青年が思っていたら、その永岡という名の従業員は「兄ちゃん、今後の参考までにもう一個いいかぃ?」と尋ねてきた。
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