第2話
もう一度、述べる。青年はひどく困惑していた。
コンビニのレジを挟んだ向こう側。そこには当然、制服を着た従業員がいて、青年が記載を終えた郵送伝票をチェックした後、手際よくその手続きを進めてくれるはずだ。だが、青年の目の前にいるのは、どこからどう見ても彼が普段イメージしているコンビニの従業員とは到底思えぬ風貌だった。
「……お客さん、ちょっと確認いいですかぃ?」
ずいぶんとドスの利いた低い声でそう言い放ったのは、間違いなく青年の目の前にいる背の高いコンビニの従業員である。だが、ぎろりとこちらをにらみつけてくるその目つきに愛想というものは微塵も感じられないばかりか、彫りの深い顔立ちの上に、眉間にぐぐっとしわを寄せている。そして、側面は厳つく刈り込み、トップはポマードか何かで固めているらしいひどく固そうな短い髪がツンツンと天に向かって伸びていた。
「ひ、ひゃいっ!?」
その従業員からかけられてくる圧に青年は思わず噛んでしまい、背中に嫌な汗が流れた。
何だろう、何を言われるんだろう。ちゃんとダンボールの封をしていなかったか? それとも重量オーバーで取り扱いできないとか言われるんだろうか……。元来、さほど気が強い方ではない青年は内心びくびくしながら、そうっと従業員の方を見上げてみた。すると。
「このダンボールの中身、いったい何ですかぃ?」
「……え?」
従業員が指差していた所に慌てて視線を向けてみれば、そこにはさっき自分が記載していた郵送伝票が置かれていた。そして従業員の指先は伝票の品名欄に向けられていて、わざわざ日時指定までしたくせに、うっかりそこだけ何も書き込まずに空欄のままだった。
「す、すみませんっ。えっと……」
それが急激に恥ずかしくなった青年は、先ほど借りたきり、そのまま握り込んでいたボールペンを使って、急いで空欄を埋めた。だが、従業員からの圧からまだ逃れていた訳ではなかった彼は慌てふためくあまり、品名欄にひどく簡潔に書き込んでしまう。本当は小麦粉と書きたかったのに。
それを見た従業員は一拍の間を空けた後、店内に響き渡る大声でこう怒鳴った。
「……ああ!? 粉じゃと~~~~!?」
「ひ、ひいっ!?」
昼下がりという中途半端な時間の為か、青年以外、店には他に客は誰もいない。どこかバックヤードで別の仕事をしているのか、それとも休憩中なのか、目の前の厳つい男以外の従業員も見かけない。完全に二人きりであるこの状況に、青年は心底恐れおののいた。
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