第100話

でも、それはほんの短い間で済みました。おじいちゃんの無事を確認できたあの瞬間、私はこの七十年前の世界に飛ばされてきてよかったって、心から思ったんです。


 おじいちゃんが、事故に巻き込まれずに済んだ。おじいちゃんにはもう、車椅子は必要ない。これからおじいちゃんは、大好きな農業にその一生を楽しく元気に費やしていく事ができる……!


 本当に、涙が出るほど嬉しかった。あんな拙い方法でも、おじいちゃんを救う事ができた。大好きだったおじいちゃんの運命を変える事ができたんだって。


 そう思ったら、もう自分の事なんてどうでもよくなりました。後は、彼だけ。美大の受験に向かおうとして事故死してしまった彼の運命を変える。その為に、私はこの世界に来たんだとはっきり確信できたし、もしそれができたなら、彼へ自分の気持ちをちゃんと伝えようと決心しました。






 それなのに、夏休みが終わって少し経った頃です。また新たな変化が私に襲いかかってきたのは。


 いや、正確に言えば、あの訳の分からない大きな力が及んだのは私にではなく、私以外の……この七十年前の世界にいる人達にでした。


 簡単に、ひと言で言い表すなら、皆、私の事を忘れるんです。最初は、おじいちゃんや彼を通じて仲良くなかった町の人達から始まり、それほど日が過ぎないうちに、何度も会ってたくさんお話もした彼のお母さんも、私の事をやがて思い出せなくなっていきました。


 この世界に留まっている私の存在が消えかかっているんだと、すぐに分かりました。という事は、すなわち本来あるべき元の私の方も……。


 間に合わなかったらどうしようって、この手紙を書いている今も怖くて仕方ない。今、この瞬間にも私の存在が消えてしまったらって思うと、怖くてたまらないんです。


 神様でも悪魔でも、何でもいい。この訳の分からない大きな力を使っている何者かにすがりたい。どうかまだ、彼に「また明日ね」って言わせてほしい。彼の運命を変えられるその日まで、どうかお願い。


 私は、どうなってもいいから。 どうか彼を、直樹を助けさせて下さい。

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