第98話
次に気が付いた時、私はおじいちゃんとその親友の子が通っている高校にクラスメイトとして転校する事になっていました。どうやって二人に怪しまれずに近付こうかと悩んでいたので、この都合のいい展開にはラッキーな部分を感じていました。
私は精いっぱい明るくふるまって、二人の間に溶け込もうと必死になりました。おじいちゃん相手にはボロを出さないように、わざわざ君付けで呼んだりしたけど。
親友の子と話す時は、実はそれなりに緊張していました。だって、初めて彼の絵を見た時からずっと憧れていたし、どうにか絵を描いているところを見られないかなって。おまけに……何かかっこよかったし。
あまりよくない頭でいろいろ一生懸命考えて、それを実行に移して、彼が美術部として絵を描いてくれるって分かった時は、本当に嬉しかった。
これで彼は天才画家としての第一歩を歩き出した。いつか元の世界に戻った時、あの頃よりもっとたくさんの彼の絵を見る事ができる。もっとたくさんの人が、彼の絵を見て心を豊かにしていくんだって。その未来が確定するまで、絶対に私が彼を守るんだって決めていました。
でも、それから少し経った頃の事です。私は、その頃の自分が置かれている状況をいぶかしむようになりました。
まずは、私という存在がだいぶ薄く感じられるという事。特に病気や怪我をする事もなく二人の横にいられるっていうのに、時々――いや、往々にして、自分の体がふわふわとした感覚に捉われて頼りなかった。しっかり踏ん張っていないと、意識すらまともに保てないなんて事もよくありました。
何とか二人に悟られないよう、必死に頑張っていたけれど、それにも限界というものがありました。次に変だと思ったのは、その限界が来るのがいつも決まって夕方になる頃だって事でした。
夕方、この町の山あいに太陽が沈み始めると、いつも視界がぐらぐらと揺れて、周りの音もよく聞こえなくなりました。何か、訳の分からない大きな力に体も意識も引っ張られてしまうような……そんな怖さがいつも付きまとってきて、何度泣き出しそうになったか分かりません。
それでも、おじいちゃんや彼に気付かれたくなくて、日が暮れるたびに、精いっぱい声を張り上げ「また明日ね」と言っていました。おじいちゃんと彼の運命の日まで、絶対に耐えようって誓っていたから。絶対に、この二人を助けるんだって。
でも、おじいちゃんにとって、運命の分かれ道となるあの日。私はついに、この時の自分が置かれている状況を理解してしまったんです。
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