第96話
それから、一週間後の事でした。おじいちゃんが亡くなったのは。
いつも通りの朝だったんです。私はいつものようにおじいちゃんの家に行って、勝手に庭先に回って居間にいるだろうおじいちゃんに「おはよう」って声をかけたのに、おじいちゃんはベッドに横になったまま、ぴくりとも動いてくれませんでした。老衰だったそうです。
すぐにたくさんの人が集まり、おじいちゃんの葬儀の手続きをしてくれました。けど、私はそこに参列できませんでした。父に邪魔されたからです。
父は、勉強もしないでおじいちゃんの家に入り浸る私の事をよく思っていませんでした。おじいちゃんの家から帰ってくるたびに、私を何度も叱りつけたものです。「そんな事の為に、ここまで連れてきた訳じゃない」と。
そんな事って、どういう意味? 素直にそう思いました。
私にとっておじいちゃんと過ごした日々は、本当に有意義で素敵なものでした。とても大事な時間だったし、彼と彼の絵に出会わせてくれた事にも本当に感謝していました。それなのに、父にとっては全部「そんな事」だったんです。
「これでもう、お前の邪魔をするものは何もないな。明日からしっかり勉強しなさい」
最後にそう言った父の言葉には、全く血が通ってないように聞こえました。どうして? 自分の娘が大事に思っていた人が亡くなったっていうのに、どうしてそんな事を言うの? どうして、一緒になって悲しんでくれないの……?
そう思った瞬間、おじいちゃんを失った悲しみやつらさが一気に私の心に押し寄せてきて、何もかもがどうでもよくなりました。もう、こんな世界に一瞬だっていたくない。大好きな人も、話を聞いてほしい人もいないのなら、もういっそ私の方から……!
父の前から逃げ出し、夕暮れの中を走れるだけ走って、気が付いた時には祖母が愛したという城跡の公園に来ていました。当てつけだと言われればそれまでかもしれないけれど、ここならうってつけだと思った自分がいたのも事実です。
私は、そこの二の丸広場と呼ばれる所から、何の躊躇もなく飛び降りました。こんなにきれいな夕焼けの光の中、大好きなおじいちゃんと憧れの彼の下に行ける。それを、心から嬉しく思いながら……。
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