第62話
「うちの親って、かなりの見栄っ張りなの。本当にすごいのはおばあちゃんで、その後を継いだだけなのに、まるで自分の手柄だってばかりにいつも威張ってる。そのくせ、私に口酸っぱく言ってくるんだ。『立派だったおばあちゃんを見習え、お前の名付け親にもなってくれたんだぞ』って。物心つく前に死んじゃったのに、どうやって話した事もないおばあちゃんを見習えっていうんだか……困っちゃうよねえ?」
「そのおばあちゃんや、親の仕事に興味はねえの?」
「興味どころか、かなりの苦手分野なんだ」
だから無理と苦笑いを浮かべてから、缶ジュースの残りを一気に飲む『あいつ』。俺も早くに父親を亡くしていてあまり覚えていないから、『あいつ』の気持ちは何となく分かった。
「……じゃあ、そのジュースを買ってくれたおじいちゃんだけが、お前の味方だったって感じか?」
俺が尋ねると、『あいつ』は「うん」とはっきり答えた。
「いろんな事をたくさん教えてくれてね。おじいちゃんがいなかったら、今頃私、どうなっていたか分かんないよ」
「……」
「今思うとね、おじいちゃんが私と直樹を引き合わせてくれたんじゃないかなって思ったりするんだ。だって……」
その時だった。ふいに『あいつ』が言葉を止めて、さっきと同じように大きく両目を見開いたのは。
何を見てるんだと、『あいつ』の視線の先を辿ってみれば、町役場の入り口の横に立てかけられている簡素な掲示板に行き着いた。それには今日の夜、隣町の川沿いで開かれる花火大会のポスターがでんと張り出されており、一輪の大きな牡丹花火がかなり印象的に映っていた。
「……ああ。そういえば、今日だったな」
近々開催される事は知っていたけど、今日だった事をすっかり忘れていた。確か天気予報じゃ降水確率は0%だったから、きっときれいな花火がたくさん見られるだろう。
今から隣町に行こうと思えば行けるけど、小遣いの大半をスケッチブックや鉛筆に費やしているから、とても記載されている額の入場チケット代までは出せない。せいぜい往復分の交通費を払って、あまり見栄えが良くない場所でちらちら見えれば御の字だ。
「……あ~。もっと早くに気付いていれば、小遣い貯めて三人で行けたのにな。残念残念」
できるだけおどけた口調でそう言いながら、俺は『あいつ』の方に向き直る。だが、その時見えた『あいつ』の顔色はものすごく悪くて、震え出した手の中からジュースの缶が滑り落ち、カランカランとアスファルトの上を転がっていった。
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