第44話
「うわあ~。これは想像以上にすごいわねえ」
家から歩いて三十分ほど先にある城跡公園は、昔の大地震による火災で城自体は燃えてしまったものの、かろうじて残った一の丸と二の丸跡、そして石垣の一部を保存して新たに造り直されたものだ。
とはいっても、それこそ保育園の頃から遠足コースとして何度も訪れているから、俺自身としてはそれほど珍しいものであるという感覚があまりない。だから感嘆の息を吐いている渋川ゼミの皆や、わざわざデジカメまで持ってきて石垣の至る所を撮りまくっている小原の気持ちがよく分からなかった。
「そんなにすごいのか、ここ……」
独り言のつもりでそうつぶやいてしまったが、しっかり耳に届いていたらしい小原がシャッターボタンを押す手を止めて、きっとこっちをにらみつけてきた。
「西本。あんた、ここに渋川先生がいなかった事を幸運に思いなさいよ? 今のセリフ聞かれていたら、レポートの上限枚数増やされてたに違いないんだから」
「え、何で……」
「一の丸や二の丸の造りもそうだけど、特にこの石垣は他の城跡とは違う珍しい積み上げ方をしていて、再現や修復はかなり難しいとされてるものなの。渋川先生だって、持ってる資料はかなり少ないと思うけど?」
「……」
「そんな貴重な歴史的建造物をレポートにしなくちゃなんだから、もうちょっと気合い入れなさいよね。葵生、こいつが絶対サボらないようにしっかり見張ってて!」
ぐっとサムズアップのポーズをしながら、葵生にそう言う小原。葵生はそんな親友の言葉にこくこくと頷いてから、俺の方にゆっくりと近付いてきた。
「じゃあ、行こうか……?」
まるで緊張しているかのように小さな声で促してくる葵生に「うん」と短く答えてから、俺達は小原や渋川ゼミの皆から少し離れた所まで移動した。
移動した先に広がっていたのは、二の丸広場と銘打たれた場所だった。ここより小高い場所にある一の丸は敵の侵入を防ぐかつての役割を果たす為、そこに辿り着くまでの道のりの斜度が急なものになっている。
それに比べればまだ下の方に位置どっている二の丸広場の方が調べやすいかと思ったが、あまり舗装されていない上に土埃が簡単に舞い飛ぶ古い石段に慣れなかったのだろう。葵生の頬は汗でびっしょりになっていたし、息切れもしていた。
「大丈夫か?」
「う、うん……」
背中を少し折り曲げ、息切れの中に混ぜ込むようにして返事をする葵生。もう少しゆっくり歩いてやればよかったと後悔しながら、俺は葵生を広場の隅にあるベンチまで連れて行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます