第33話
始業式が終わって、教室の掃除が始まるまでのちょっとの時間。俺は改めて自分のスマホで検索し、直樹が見せてくれたページを読んでいた。まだまだ外気に夏の暑さがしっかりと残っているはずなのに、俺の背中にはぞくりと冷たいものが伝っていた。
そのページに載っていた内容は、三日前、俺が『あいつ』を誘って行こうとしていた隣町の花火大会の記事だ。決して色とりどりの花火の満開ぶりを讃えるものじゃなく、開始直後に起こった暴発事故についてのものだった。
事故原因はまだ調査中らしいが、大会が始まってすぐ五百発分用意されていた花火の一部が突然引火・暴発し、無数の大きな火の粉や不発弾と化した花火玉の星が観客席に降り注いだのだという。中には服に燃え移って火傷をした人、花火玉の星が体にぶつかって骨折をした人もいたらしいが、死人が出なかったのは不幸中の幸いだった……なんて、とても他人事とは思えなかった。
だって、最も被害が多く出たのは、一番花火がよく見えると踏んでいたど真ん中の観客席のあたりで、俺はそこに『あいつ』を連れていくつもりだったんだ。そして、いくつか花火が上がってムードが出たところで告白を、と……。
だけど今、そんな事を考えていた時のドキドキやそわそわなんてものはいともたやすく吹き飛んでいて、全く正反対の気持ちが俺の心の内を占めている。もし、あの時『あいつ』の言う事を聞かず、ぐしゃぐしゃの紙ごみ同然となったチケットを握り締めたまま、やけくそで一人花火大会に出かけていたら……。
背中どころか、頭のてっぺんからつま先まで冷たいものが染み渡ってしまったようで、俺はぶるりと全身を震わせる。行かなくてよかった。『あいつ』の言う事を聞いておいて、本当によかっ……。
『ああ、よかった。まだ学校にいてくれてたんだね?』
……あれ?
『お願い、今日の花火大会には行かないで』
『絶対に行かないで、行っちゃダメ』
『お願い。花火大会には絶対に行かないで。本当に、お願いだから……!』
何かおかしいと思ったのは、俺の気のせいだろうか。こんなふうに思うのは、変なんだろうか。まるで『あいつ』が前もって花火大会の事故を知っていたかのような口ぶりで、俺を止めてくれただなんて考えるのは……。
そして、何より疑問に思ったのは、それを直樹も知っていたんじゃないかって事だ。俺は、『あいつ』が一人で教室のごみ箱の中身を焼却炉まで持っていったタイミングを見計らって、直樹の腕を捕まえた。
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