第25話

だから、去年の三年生達が卒業した時点でうちの高校に部活というものはなくなったし、そもそも今年度で廃校になるんだ。今さら俺達が新しく作ったところで意味ないだろと思っていたが、『あいつ』にはそうでもなかったようだった。


 俺の話をひと通り聞いて、「そうなんだ……」とつぶやいた『あいつ』は少し考えるようなそぶりを見せた後で、いきなりこう切り出した。


「じゃあ、部活作っちゃおう!」


 これには、俺も直樹も同時に「はぁ?」と呆れた声を出す。確かに一目惚れはしたものの、まさか人の話を聞かない子だったなんて……。


 どうしてそんな事を言い出すのか分からずに唖然としていたら、そんな俺の代わりとでもいうみたいに直樹が「何で?」と尋ねた。


「今、勝が言っただろ? あと半年で閉校になるのに、今さら部活を立ち上げたって意味はないって」

「その意味がないって決めるのは、他の誰かなの?」


 こてんと首を傾げつつ、直樹の言葉を遮って『あいつ』が尋ねた。


「自分がやりたい事をやるだけなのに、それを他の人が『意味ないね』って言うのはおかしな事だと思う」

「……」

「あと、それを自分自身で言うのはもっとおかしいよ。自分で自分を信じてあげなきゃ、どんな事だって楽しめないんじゃない?」


 だからねと、一度言葉を切ると、『あいつ』は俺達の間からすり抜けて、何歩も前に進んだ。ちょうど昼時のぎらぎらとした太陽が『あいつ』の姿をスポットライトのように照らしていて、ただのあぜ道がまるで大きな舞台へと続く花道のように見えた。それくらい、『あいつ』はまぶしかったんだ。


「そういう素敵な事、やってみようよ。あと半年しかないんだし」


 くるりと振り向きざまに言ってきた『あいつ』の誘い文句は、特別難しかったり聞き触りのいい言葉とかじゃなかった。ごくごく普通でありきたりのものであり、自分のやりたい事をやるという行為は案外そういうものなんだと教えてくれた。

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