第22話

「……何しに帰ってきた?」


 女に支えられるようにしている直樹に向かって、俺は言ってやった。


「まさか女連れで、のんきに里帰りしてきたって訳じゃないんだろ?」

「……大学のゼミのレポート作りで、この町の城跡を調べる事になったから、俺が案内役を」

「ふうん。いつまでいる気だ?」

「三日間」

「だったら、時間は充分あるよな?」


 淡々と答える直樹。その手はそろそろとあぜ道に散らばっている鉛筆を拾い出し、スケッチブックにもゆっくりと伸びていく。開かれたそのページには、うちの高校のセーラー服を着ている『あいつ』がこのあぜ道を駆けていく絵があって、ああ、本当にこんな笑顔だったとまた思い出す事ができた。


「帰るまでに、『あいつ』の墓に行って手を合わせてこい。葬式にも来なかったんだから、それくらいしたっていいだろ」


 俺がそう言うと、直樹の口からひゅっと息を飲む音が聞こえ、それと同時に女の両目が大きく見開くのも見えたが、そんな事は実にどうでもよかった。


 俺はボコボコに殴ってやりたい気持ちを抑えて、下手くそだったけど言うべき事はちゃんと言った。高校時代の親友がここまで言ってやったんだ、ありがたく思え。


 そんなふうに思いながら、くるりと背中を向けた時だった。とても小さな声で、直樹がこう言ってきたのは。


「……『あいつ』の葬式なんて、いつやったんだよ」

「は?」

「この町のどこに、『あいつ』の家の墓なんてあるんだよ……」


 何言ってるんだ、この野郎。本当に、バカになったのか? 俺は肩越しに直樹と女を振り返った。


 『あいつ』がいなくなった二日後には、町の皆も総出で葬式に参列しただろ? 皆、悲しんでた。皆で『あいつ』の骨を拾って、納骨まで一緒にさせてもらって……あれ?


 どうしたんだ、俺? どうして、その時の事がちゃんと思い出せないんだ? 俺は、確かに『あいつ』の葬式にも、墓にも行って……あれ?


 どういう訳か、その時の事を全く思い出せない。それどころか、ついさっきまで頭の中でしっかり覚えていたはずの『あいつ』のまぶしい笑顔にかすみがかかり始めている。だんだん真っ白なそれに包まれて、『あいつ』が見えなくなる。何でだよ、いったいどうなってるんだ……!


 俺はさっきよりもずっと必死になって、高校時代の頃の事を思い出そうと目を強く閉じた。直樹と俺、そして『あいつ』がいたあの頃の事を……!

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