第二章
第19話
「てめえ、この野郎! マジで許さねえぞ、俺は!!」
本当に信じられず、耐え難いものを見た時、人間はボキャブラリーっていうもんを失くすんだなと俺は初めて知った。それくらい、俺は今、約三年ぶりに会った目の前の大バカ野郎に腹を立てている。
昨日は散々だった。じいちゃんの代から大切に使っていた軽トラがとうとうおしゃかになり、買い出しをしていた隣町の道の真ん中で動かなくなったのをきっかけに、次から次へと面倒事ばかりが起こった。
いくらご時世だからって、いつも使っている肥料も大幅に値上がりしていたし、軽トラがおしゃかになったせいで店に配達を頼んだら足元を見られた。隣町っていっても、俺達が住んでいるこの町とはだいぶ距離があるから、歩いて帰るにしても結構な時間がかかる。しかも山あいにある町だから日が暮れるのも早い。
買い出しを終えたらすぐ帰ってくるつもりだったから、財布の中には大して金も入れてなかったしカードもない。おまけに作業用の小汚い格好のままだったから、どこかの店に入って時間を潰すのも忍びなかった。
結局、隣町の駅前にあるベンチで野宿した挙げ句、日が昇って人目に付く前に起き出して歩き始めた。農作業でだいぶ体力が付いたとはいえ、寝心地が悪すぎるベンチで一晩明かした上に歩き詰めで戻ってきたものだから、全身に鈍い痛みが残っている。
家に帰ったら畑の水やりだけ母ちゃんに頼んで、ひとまず昼まで仮眠しよう。そう思いながら、やっと町までの一本道であるあぜ道に差しかかった時だった。こんな朝早くから、こじゃれた服を着た若いカップルがあぜ道の脇に座り込んで何かしているのが見えたのは。
女の方は、知らない顔だった。俺達の町は年々住む人口が減ってきていて、もう誰も彼もが顔見知りだ。物珍しいものがあるとすれば、時々何かの学者さん達が立ち寄りに来る有名だか何だか分からない城跡があるくらいで、観光名所どころかコンビニすらない寂しい町となっている。
そんな町に旅行にでも来たのか、ずいぶん物好きな奴らだなと思いながら、俺はカップルの前を通り過ぎようとした。だが、山あいから覗く朝日の光でそのカップルの男の顔をはっきりと見て取った瞬間、俺はこの三年間で溜めるに溜め込んでいた怒りが一気に噴き出すのを感じた。
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