第18話
まださほど気温は高くないが、昨日の天気予報で確認した限り、今日は一日快晴のはずだ。雲一つないすがすがしい青空が広がる事でしょうと、気象予報士が言っていたのを思い出す。
じゃあ、いったい何の影だろうと思う私と、デッサンの邪魔と感じたらしい直樹。その互いの顔を上げるタイミングが見事に重なる。するとあぜ道の脇に座り込んでいた私達のすぐ目の前に、一人の若い男性がこちらを見下ろすようにして立っていた。
その男性は汗ばんだタンクトップに少しほつれた麦わら帽子を被っていて、泥まみれになった厚手のズボンと長靴を履いていた。タンクトップから覗いている肩や両腕は、直樹のお母さんよりもずっと真っ黒に焼けて細かい傷も多い。私達と同い年くらいに見えるのに、農業一本で生活をしている人なんだとすぐに分かった。
「あ、あの……おはようございます」
その野太い両腕を厳つく組んで私達を見下ろしている男性に、とにかくあいさつをと口を開く。だが、彼はあいさつを返してこないばかりか、ただただ無言でじっとこっちを見下ろしてくるばかりで……。
いや、違った。さっきまでデッサン中だった直樹と同じで、この男性の目にも私の姿なんて入っていない。彼が見下ろしているのは私達じゃなくて、直樹だった。スケッチブックと鉛筆を使って少女の絵を描いている直樹だけだった。
鉛筆を走らせていた手を止めた直樹は、少しだけ頬にニキビ痕が残っている彼と目を合わせる。そして、たっぷりと間を空けた後で「お前、
「……てめえ、直樹!! どのツラ下げて、この町に帰ってきたぁ~!?」
勝と呼ばれた男性はそう怒鳴ってくるや否や、組んでいた両腕を直樹の方に伸ばしてきて、襟元を乱暴に掴み上げた。そのせいで、直樹が持っていたスケッチブックや鉛筆はばらばらと音を立ててあぜ道の方へと散らばっていく。
何が何だか、さっぱり分からない。でも、そんな私の視界の片隅に留まったのは、一枚だけと約束したスケッチブックの中のデッサンで、セーラー服を着たあの少女が楽しそうにこのあぜ道を駆けていく様が描かれていた……。
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