第15話
翌朝。私は女子部屋の誰よりも早くに目を覚まし、洗い立ての心地いい布団から上半身を起こした。
枕元に置いてあったスマホの液晶画面を確認してみたら、まだ午前六時をちょっと過ぎたあたりだった。六時半にアラームをセットしておいたのに、それよりも三十分以上早く起きてしまったのは、きっと昨日の夕飯の炊き込みごはんが本当においしかったせいだろうな。
いや、炊き込みごはんだけじゃない。お風呂も最高だった。さすがに温泉という訳にはいかなかったけど、近くの井戸から汲み上げたというミネラル豊富な天然水をていねいな造りの檜風呂で沸かしてもらったそれは、長時間の移動で疲れた体に染み入ったし、肌によく馴染んだ。
こんないい環境で直樹は育ってきたんだなとつくづく思いながら、私は朝の支度に取りかかろうと寝間着の浴衣を脱ぐ。渋川ゼミは男子より女子の方が少し多いから、急がないと洗面所が混み合ってしまう。
そうでなくても、私は本来渋川ゼミとは関わりがないのだから、より気を遣わないと……。隣の布団でまだ寝息を立てている美雪や他の子をアラームより先に起こさないようにそうっと着替え終えると、タオルと化粧道具、そしてスマホを持って洗面所へと向かった。
直樹のお母さんに教えてもらった通り、廊下の道順に沿って歩き、洗面所に入った。お風呂場とは少し離れた所にあるそこは横に並ぶように洗面台が三つ設けられていて、タイル敷きの床はだいぶ古い物なのか、色褪せている上に端の方にはヒビも入っている。
それでもお母さんがしっかりと掃除してくれているおかげで褪せてはいてもチリや埃は一つもないし、ざらつきすら感じられない。ご主人――つまり直樹のお父さんは早くに亡くなってしまったと昨夜聞いたから、私達を出迎える為に一人でこの広い民宿を掃除してくれたんだなと思うと、感謝もさらにひとしおだ。
皆がレポートを作っている間、私は何かしらお母さんのお手伝いをしようと決めながら洗顔と歯磨き、そして軽く化粧を済ませる。するとどこかから、誰かの足音が聞こえてきた。
スマホを見れば、六時二十分だった。まだ皆が起きてくるにはちょっと早いから、きっと朝ごはんの準備をしているお母さんに違いない。さっそくお手伝いを……と思い、私は洗面所の入り口から出る。そこで、私はスケッチブックとペンケースを抱えている直樹とばったり出くわした。
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