第14話
ひとまず男子部屋と女子部屋に分かれて寛ごうかと、私達はそれぞれ向かおうとする。その時ふいに「あの……!」とお母さんに呼び止められ、私は「はい」と彼女に向き直った。すると。
「もしかして、うちの直樹と親しくして下さってる方ですか……?」
少し遠慮気味にそう問いかけてきたお母さん。まさかそんな事を聞かれるだなんて思ってもいなかったから、うまく受け答えできずにいると、私の様子に気が付いた美雪が廊下を引き返してきて、「はい、その通りです」と私の両肩を支えるように手を添えてきた。
「
「ちょっ、美雪!」
「本当の事でしょ?」
いたずらっぽく笑いながら、美雪が言う。親切心は本当にありがたいんだけど、それが直樹のお母さんに通じるとは限らないのに……。
少しハラハラしながら私がそちらを見やれば、お母さんは先ほど見せてくれたものと全く変わらない柔和な笑みをこっちに向けてくれていた。
「そうですか。それは本当にありがとうございます」
少し間を空けてから、お母さんはゆっくりとていねいに腰を曲げて私にお礼の言葉を告げた。
「あんな事があったから、もうあの子はこの家には帰ってこないと思ってましたけど、先日『大学の仲間と、大事に思ってる人を連れて帰るから』と電話をくれた時は本当に驚きました……」
「え?」
美雪に「宿の手配をよろしくね」と頼まれていたから、きっと実家の方にお願いの電話をしたんだろうけど、その内容よりも私は別の事に驚いていた。『あんな事があった』って、いったい……?
そのあまりにも驚いてしまったせいで、私はすっかり固まってしまい、『あんな事』について聞き出すタイミングを完全に逃してしまった。その間にお母さんは何でもないふうに「……それでは、ごゆっくり」と言って戻っていってしまったし、美雪も私の肩に両手を添えたまま動こうとしない。
だから私は何とか首だけを動かして、美雪の方を振り返ったのだが。
「ねえ、美雪。あんな事っていったい」
「……炊き込みごはん楽しみだね、葵生!」
不思議な事に、美雪は今の話などまるで聞こえていなかったかのように、ぱっと私から離れて廊下の奥へと進んでいく。私は呆気に取られてしまったが、今は荷物を部屋に運び、移動で疲れた体を労う方が優先だと思って、慌てて彼女の後を追った。
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