第10話
十五分の休憩を挟んで、ちょうど四時間後。長距離バスは終点である小さな無人駅の前に到着した。
私達の大学の最寄り駅とは全く違うその風景に、それぞれがバスを降りた瞬間に唖然として黙り込む。私や美雪も例外ではなかったので、最後に降りてきた直樹がそんな各々の背中を見た後で、「だから言っただろ。避暑地なんてものには程遠い、超が付くド田舎だって」と呆れたように言い放った。
「リーダーのお目当ての城跡がある以外は、何のおもしろみもない緑豊かな田園風景が広がる田舎町だよ。いや、もはや村と言っても過言じゃないかもな。年々、人口も減ってるし」
「なっ……おいおい、泊まる場所とか大丈夫だろうな!? あと、ここら辺って電波通ってんのかよ!?」
派手な服装をした渋川ゼミの一人がかなり不満げにそう言いながら、ズボンのポケットに入っていたスマホを取り出してぶんぶんと振ってみせる。それを見た直樹がはあっと長いため息をついた後で「さすがに、そこまでひどくない」と答えた。
直樹を先頭に、無人駅の前からまっすぐ伸びているあぜ道を歩く。私や美雪はもちろんだったが、渋川ゼミの皆も普通の住宅街育ちだから、こんなにたくさんの田んぼや畑を生で見るのは初めてだった。小学校の時、授業の一環としてテレビで何度か見た事はあるけど、どこか別の遠い国の風景のように思えて身近に感じる事ができなかった。
でも今は、自分がいかに恵まれていたのかよく分かる。田んぼで伸びているまだ緑色の稲や、畑の中で連なっている様々な作物が、山あいからの優しい風に揺られてさわさわと擦れ合っているのも心地いい。そんな音を聞きながら歩いていれば、視線の先に『ナス畑』と小さな看板が立てられている畑が見えたので、帰ったら苦手なナスの揚げびたしを食べてみようかなと思った。
渋川ゼミの皆もバスの中での睡眠で英気を取り戻した事に加え、普段の生活では叶わない物珍しい風景を目の当たりにしたせいか、やがてはしゃぎ出し、時々立ち止まってはスマホで好き勝手に撮影し始めた。稲のアップを撮っている人や遠くに見える山々を撮る人、畑をバックに自撮りをする人もいる中、直樹のすぐ後ろを歩いていた美雪が小さなため息を一つ吐いてから「ちょっと皆」と声をかけた。
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