第7話
翌日は木曜日だった。毎週木曜は三コマ目しか授業を取っていないし、コンビニのバイトも休みだ。それを知っている美雪のLINEに書いてある通り、大学の東棟に位置する図書室まで足を運んでみれば驚いた。うちの大学の図書室は結構な蔵書量を誇るのでそれなりの広さがあるのだが、そこの一番端の席であったというのに珍しい組み合わせであるせいか、美雪と直樹の二人が座っているそこはとても目立って見えた。
私が来た事に気付いた美雪が、「葵生」と控えめな声で私を呼びながら手を振ってくる。すると、伏せ目がちで美雪の正面に座っていた直樹の両肩がわずかに震えたのが分かった。
机の上には、あのスケッチブックがまるで献上されているかのようにぽつんと置かれている。気の強い美雪の事だ。私の事を気遣うあまり、図書室であるという事もわきまえず、直樹にあれやこれやと捲し立ててしまったのかもしれない。そう思うと気が気じゃなくて、私は早足で二人の元へ向かった。
「待ってたよ、葵生」
美雪はにかっとした笑みを浮かべると、まずは私を自分の隣に座るようにと促した。うんと頷きながら美雪の隣にある椅子に腰かける私を、直樹はまだ見ようとしない。じっと、目の前のスケッチブックにその視線を注いでいた。
ああ、きっと何かしらのインスピレーションが浮かんで、今すぐにでも鉛筆を走らせたいんだ。一瞬でも早く、あの少女の顔を描きたいんだ……。そんな事がすぐに分かってしまうのも、今はとてもつらい。
それを知ってか知らずか、突然美雪が直樹に向かって「いいよね?」と確認するかのように切り出した。
「さっきも言った通りだし、西本の実家の方が最適だと思うから」
「……いや。それを言うなら、そっちの地元の方がよっぽど」
「何? まさかゼミ班のリーダーである私の決定事項が聞けないっていうの? まだ一枚もレポート書けてないくせに?」
じろりとにらむように見つめてくる美雪に、直樹はますます居心地が悪そうに縮こまる。そういえば初めて美雪を紹介した時、うっと息を詰まらせたように顔をしかめていたっけ。私の親友だから無下にできないだけで、きっと直樹は美雪のようなタイプは元々苦手なんだろうなと改めて思った。
「……分かった、好きにしろよ」
少し間を置いてから、直樹は渋々とそう返事をする。それを見た美雪は、まるでいたずらが成功した子供のように「よっし!」と小さなガッツポーズをした後で、私の方を振り返った。
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