第115話

以前、トメに用意してやったカルパッチョにフルーツの盛り合わせ。それからシーザーサラダにジャーマンポテトのピザ。最後に運ばれてきたのは、デザートの中でも一番人気の高いストロベリーソースのかかったバニラアイスだったか。


 よほど腹を空かせていたのか、それらが次々とテーブルの上に乗せられた途端、智広は勢いよく手を伸ばしてバクバクと口の中に収めていった。


 すさまじい食べっぷりではあったが、まだかろうじてマナーが成っている様だったので、拓海も強く出られない。時折、松永が「そんなに急がれなくても大丈夫ですよ」と微笑ましく声をかけているのを見れば余計だった。


 酒類より品数は少ないが、ホストクラブにもそれなりに食事のメニューが整っている。ただ、やはり普通のレストランに比べるとやはり割高だし、ピザに至っては冷凍食品とさほど品質は変わらないだろう。そんなものでも、智広は嬉しそうに頬張っていた。


「ありがとう、兄さん。でもお酒頼まなくてよかったの?」

 

 ピザの最後の一切れにかじりつきながら、智広が言う。そんな彼に、拓海はふうっと大きなため息をついた。


「空きっ腹に酒入れてどうすんだよ。前みたいに潰れても、もう助けねえぞ」

「でも、これだけだと大した売り上げにならないんじゃ……」

「そんなに気になるなら、あのばあさんに土産買っていけ」

「ありがとう! あの、松永の分も頼んでいいかな?」


 そう言って、テイクアウト用のサイドメニュー表を見始める智広に、「私の事などお気になさらず」と慌てだす松永。そんな二人を見て、拓海は何故か心のどこかでもやっとした感情が湧き出てきたのを感じた。


 やっぱ、そうだ。前々から思ってたけど、こいつらの方がよっぽど。


「お前らの方が、本物の兄弟みたいだな」


 そんなつもりじゃなかった。こんな事など言うつもりは、さらさらなかった。なのに、気が付けばそんな言葉が口から勝手に出ていて、平静を装ってはいたものの拓海は心底慌てた。


 何だ、今の。俺は今、何て事を口走った!? これじゃまるで、こいつらに嫉妬してるみたいじゃねえか……!


 今度は拓海の方がバツが悪くなって、二人から視線を逸らす。だが、智広と松永はほんのわずか、ぽかんとしていたものの、すぐに二人そろって静かな笑みを浮かべた。


「確かに、そう見えるかもね。松永は僕の家族だし」


 やがて、智広が口を開いた。

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