第22話
「ところで佐嶋君、その人達は友達かい?」
このラーメン屋の店主であろう男が、首を伸ばして智広の後ろに立っている拓海と笙を見つめる。智広はにこっと笑うと、緩く首を横に振った。
「ううん。僕の兄さんとその後輩の人だよ」
「えっ⁉ 兄さん⁉」
笙がそうだったように、店主もひどく驚いた顔を見せる。そして慌てふためきながら、厨房から飛び出し、智広のすぐ目の前までやってきた。
「兄さんって、前に話してくれたあの兄さんか!?」
「うん、やっと見つかったんだ。こっちが僕の兄さんだよ」
そう言って、智広はいきなり拓海の左腕を取ってぐいっと引っ張る。相変わらずすごい力だ。拓海はろくに抵抗もできず、たたらを踏みながら智広の横に並ばされた。
「おいっ、お前……」
「見てよ、おじさん。そっくりでしょ、僕達」
自慢話でもするかのように、智広は力強い声色で言い切る。拓海は腕を離そうとしない智広をぎろりとにらむが、店主はそれには気付かない様子で感慨深げにうんうんと頷いていた。
「ああ、よかったなぁ。ずっと捜してるって言ってたもんなぁ」
「うん、だから報告に来たんだ」
「うちのバカ息子も喜ぶってもんよ。今呼んでくるから、ちょっと待っててくれ」
そう言うと、店主は一度カウンターの中へと入っていき、その奥まった所にあるドアを開ける。ドアの向こうは少し急な角度を保っている階段が見え、階上からの電気の光がぼんやりと漏れていた。
「おい、
店主のその呼び声に数瞬ほど遅れて、階段からドタドタと慌ただしい足音が聞こえてくる。そして何秒も経たないうちに、智広と同い年くらいの青年がドアから飛び出してきた。
「本当か、佐嶋……」
スウェット姿というラフな格好をしている青年は、ずいぶんと驚いた表情で智広を見ている。智広はこくりと一つ頷いた。
「うん、僕の兄さんだよ」
そう言って、また智広は拓海の左腕を引っ張る。「おい、やめろ」と腕を引き離そうとする拓海であったが、青年――彰人もそれには全く気も留めず、智広を見つめた。
「よかったな」
少し息を詰まらせた後、彰人は少し震える声でそう言った。
「よかったな、佐嶋。本当によかった……」
「うん」
「兄貴とラーメン食いに来たのか? だったら遠慮なく注文してくれ、俺も腕を振るうから」
彰人は両腕の袖をまくり上げると、そのまま厨房の方へと入っていく。店主の方も「よっしゃあ!」と気合いの入った声をあげた為、拓海は笙を連れてこの店を出ていくタイミングを完全に失ってしまった。
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