第14話

「これ、あなたですよね?」


 青年は少し大きな声を出しながら、拓海にとって見覚えのありすぎるものを見せてくる。さっきまで女社長の口を滑らかにしていた、あの雑誌だった。


 青年が開いたそのページには、見開きのグラビアが載っていた。見切れている下着姿の女性モデルの背後から両手を伸ばして抱き寄せている上半身裸の拓海が写っている。何事かと首をのばして様子を窺っていた何人かの客達が、また黄色い悲鳴をあげた。


「おい、やめろ」


 こんな所で何を広げて見せてくるんだと、拓海は青年をたしなめる。だが青年は全く意に介す様子がなく、くるりと雑誌を自分の方へと向けると、ほうっと深いため息をついた。


「さすが兄さん。プロフェッショナルを感じます。本職のモデルにも負けない魅力がひしひしと伝わってくるよ!」

「おい……」

「まさかこんな形で見つかるなんて思わなかった。家政婦さんがたまたま持っていたのを見かけたんだ。あ、その人はトメさんっていうんだけど、彼女には本当に感謝しなくちゃ。今年のボーナスは三倍……いや、五倍にしてあげよう!」

「だから! ちょっと黙れって!」


 一人で勝手に盛り上がっている青年の言葉を止めたくて、ついに拓海は大声をあげた。すると、意外にも青年はぴたりと黙りこんだ。


 拓海は、目の前にいる青年と男の存在が気に入らなくなってきた。


 何なんだ、こいつら。いきなり訳の分からないことを言い出して。兄さんって何の事だ? そもそもいつの間に入ってきた? 新人どもは何やってんだよ。


 感情に任せて怒鳴り付けてやりたかったが、拓海は深呼吸を一度する事で落ち着きを取り戻そうとした。


 今日は年に一度の稼ぎ時だ、これ以上場を乱す訳にはいかない。周りの客も心なしか若干引いてるような顔してるし、何より一番の太客の目の前で失態は晒せない。


「申し訳ございません、美也子様。美也子様の前でとんだ粗相そそうを……」


 まずは女社長に謝るべきだと、拓海は彼女を振り返る。だが次の瞬間、拓海は長い付き合いの中で一度も見た事のない女社長の表情を見て、驚きを隠す事ができなかった。


「な、な、なっ……!」


 たらふく高い酒を飲んで紅潮し尽くしていたはずの女社長の顔は、今は哀れなほど蒼白と化していて、信じられないものを見るかのような目を青年と男に向けていた。言葉が出てこないのは、決して酔っているからではないのだろう。むしろ、完全に酔いは醒めた様子だった。


「お久しぶりです、金城きんじょうさん」


 そんな女社長に向かって、青年は人懐こそうな満面の笑みを浮かべながら挨拶をした。

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